「宇宙を作る」シミュレーション天文学への招待 第3回 シミュレーションが解き明かす太陽の謎 - 黒点とフレアのメカニズム
マイナビニュース / 2025年2月5日 7時1分
さらに、黒点は単純にN極とS極の1つのペアのみとは限らず、より複雑な構造を持つ場合がある。たとえば2011年には、2組の黒点が極めて近くに出現したことがあった。これに関しては同じく2017年の研究で、1本の磁束管が2か所で浮上した場合、2組形成されるのではないかという仮定の下にシミュレーションし、再現に成功。太陽内部での形状が表面での黒点の複雑さを決定することがわかってきたというが、この時点では磁束管と対流との相互作用がわかっていなかった。
○アテルイの登場で太陽研究も一気に加速
そうした中、アテルイII(2018年4月に稼働)の時代に入ると、さらにシミュレーションがより複雑になっていく。名古屋大学の堀田英之教授らが輻射磁気流体コードを開発し、それを用いたリアリスティックな熱雷流を再現する輻射磁気流体シミュレーションにより、先進的な黒点再現計算が行われたのである(このシミュレーションには富岳も用いられた)。
太陽の対流層は、下部が約10万℃なのに対し、上部は約6000℃という大きく温度差のある領域で、プラズマが活発に対流運動を繰り返しているとされる。この時の研究では、太陽表面の一部を縦横10万kmの正方形に区切り、約20万kmの深度まで対流層を再現。深部の対流セル(数万km・1か月)から表面の粒状斑(1000km・10分)までの階層構造を持ち、これらが同一の計算ボックスで再現された。まず熱対流を発生させ、その発達後に磁束管が埋め込んだところ、対流の流れに乗って磁束管は自動的に浮上することが確認されたといい、表面には極めて実物と似た黒点がリアルに再現されたのであった。
さらに太陽内部の熱対流の構造によっては、N極とS極の黒点ペアが2組出現するケースも見られたという。それらは接近して複雑な形状の「デルタ型黒点」となり、その上空にはねじれた磁力線の構造が自動的に作られることがわかった。なおフレアが発生した際には、そのようなねじれた磁力線が宇宙空間に放出されることがわかっている。
続いて別の計算結果では、従来の理論的予測とは異なり、磁束管にねじれがなくても太陽表面まで浮上し、黒点が形成されたとする。対流の渦運動が黒点を回転させることで、磁力線にねじれが生じたという。そしてその黒点はフレアを発生しうるほどの磁気エネルギーを蓄積していたとした。
そして最後に、アテルイIIIが登場したことを踏まえた今後のシミュレーションを活用した太陽研究の展望が語られた。まず挙げられたのは、「モデリングのさらなる進展」。広いパラメータ空間を調査することで、“黒点形成、特にフレア黒点形成の条件をさらに理解すること”、“「スーパーフレア」を生じる恒星黒点の再現”が可能になるとする。なおスーパーフレアとは、基本的に安定している太陽のような黄色矮星では希にしか発生しないと考えられている、極めて強力なフレアのことだ。もし地球が直撃を受けたら、事前に対策を採らない限り、人工衛星が失われたり、地球の送電網に被害が出たりするなど、極めて危険である。
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