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報道の裏事情 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2013年10月31日 16時31分

 だが、あの報道を見聞きして、なぜこれがわざわざ日本に流されるほどの事件なのか、よくわからない人もいたのではないか? 中国人メディア関係者が熱気を持って事件の深層が討論する様子を追い続けていたわたしですら、日本の報道だけを読んでも一体これを報道することで何を伝えたいのかよくわからなかった。

 というのも、中国人ジャーナリストたちが問題にしていた、「湖南省の警察がわざわざ広東省までやってきて逮捕するということ」「ネガティブな記事を書かれた企業が『信用を脅かされた』と主張するが、それは民事のはず。なぜ民事なのに警察が出動するのか」「報道で信用を脅かされたのなら、記者個人ではなく新聞社を訴えるはず」「被害を訴える企業は実は湖南省の省政府と深い関係がある」といった点が、まったく説明されていなかったからだ。明らかにこの事件は中国社会に横たわる複雑な深層が関わっている。だが、日本では「一面トップに『釈放しろ』」という派手な様子が中心になり、事件の背景、及び「なぜそれが大事件なのか」を読者にきちんと伝えられた記事はほとんどなかった。

 だからこそ、CCTVに「第三者からカネをもらって中傷記事を書いた」という「自供」が出た瞬間に、日本メディアの報道は先に進めなくなった。カネをもらって書くなんて記者が悪いんだろ――日本の一般的な議論はそこで止まってしまうからだ。そして日本の紙面では「事件」はそこで収束し、日本の読者はこの事件を「中国の記者がカネもらって中傷記事を書いたところを逮捕され、新聞社が大騒ぎをした。バカだねー」程度にしか理解できていない。

 だが、この事件は実際にはまだ収束していない。本気で司法とジャーナリズム、そして企業活動のあり方について考えている人たちの間では真剣な討論が続いている。例えば、政府系テレビでの「自供」が当局によって一般に報道規制が敷かれている中でどれほど「有効」なのか、世論操作ではないのか。また捜査当局から「カネを渡したのは誰なのか?」「それはなんのためなのか?」「同記者の書いた、根拠のない中傷とは具体的にどの部分なのか?」「正式な逮捕であれば警察のネットワークを通じて逮捕するものだが訴えた企業の地元警察が直接広州に乗り込んだのはなぜ?」といった裏付け資料が出てこない状態で、メディアが流した「自供」を社会が一方的に「有罪証拠」とみなすのはおかしいのではないか......といったように。

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