「拝鬼?」 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月4日 20時58分
数年前、日本のウェブユーザーたちが創ったキャラクター「日本鬼子」(「ひのもとおにこ」)が、中国のネットで話題になったことがあった。 日本のアニメキャラ好きな人たちの創作力を結集(?)させた可愛らしいキャラクターで、中国人ネットユーザーの間でも「萌〜!」(日本語のネット用語「萌え」=「可愛い」の転用)と人気を呼んだ(「日本鬼子 ポータルサイト」 )。
だが、中国人をびっくりさせたのはその可愛らしさだけではなかった。「鬼」という言葉を可愛らしいものに転用させるという日本人ネットユーザーのアイディアも新鮮だったのだ。
中国語の「鬼」は、亡霊、化け物、悪漢、陰険さ、腹黒さ、小賢しさを意味する。反語的に俗語で「ちょっと気が利く」みたいに使うこともあるが、一般には悪どさの代表みたいな文字で、中国人はそれを見ただけで憎しみが湧くらしい。日中戦争中に使われだした「日本鬼子」とは陰でこっそり日本兵を指すものだったが、その後、わたしが知る限り1990年代までは小説などには使われてもほとんど公式にメディアを飾るようなたぐいの言葉ではなかった。2000年に著名俳優の姜文が監督して製作した映画『鬼子来了』(邦題タイトルは「鬼が来た!」)の公開あたりから頻繁に目にするようになった気がする。
だから、そんなおどろおどろしいものから可愛いキャラクターが生まれる、という発想自体が中国人にはなかったし(ほとんどの日本人にもなかったが)、それに堂々と日本人が「日本鬼子」という名前をばっちりつけてしまったことに、中国人は心底驚き、感嘆した。実は日本アニメや漫画の中国人ファンたちはそのストーリーや展開の他に、実はそこに見え隠れするそういうセンスやエッセンスを味わっている。中国では公的な場で使われる、がちがちの教条主義的な言葉使いは若者を窒息させてしまいそうになるのに、日本のエッセンスにかかると見慣れた漢字や単語が想像もしなかったような「お姫様」に変身してしまう。若者なら誰だってそっちの方が楽しいはずだ。
年末の安倍首相の靖国参拝を第一報で「拝鬼」と伝えたのは新華社だったという。前述したように「鬼」はなにはともあれオドロオドロしい、暗い意味を持つネガティブな俗語だから、ニュースのタイトルとして相応しいとは言えない。が、まぁ、新華社はお国の、というか共産党の「舌」だからまともに取り合っていてはどうしようもないが、その舌が「鬼を拝むやつ」と書いたことで、化け物を拝むなんてまともな人がやることではない、という強烈なイメージを読む者(=国民)に植え付けることを狙ったのは間違いない。
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