「拝鬼?」 - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り
ニューズウィーク日本版 / 2014年1月4日 20時58分
靖国を巡っての日中間における長きにわたる論争をここで繰り返すつもりはない。また、これを読む方一人一人のとらえ方にもさまざまな意見があるわけで、ここでそれを取り上げて論じる必要もないだろう。
だが、靖国問題は主に中国共産党の政治・外交カードと言われてきた。それはつまりある意味日本にとってもそれは中国への政治・外交カードとなる。その(これまた)長きに渡る分析の中には、そうなった理由の一つに、「中国と日本では、死者、及び死後の世界に対する考え方が違うのだ」という論がある。
靖国神社参拝を説明する日本側の主張の一つに「死した者は平等であり、生前の罪とは別」といったものがあるが、これに対して中国側は「中国人に苦しみを与えた戦犯を祀り、それを参拝するとはけしからん」と主張する。実際には日本国内でも巡っての「死者の平等性」については国内で議論があるが、上記のような論を簡単にまとめると、日本は「生前の如何にかかわらず死者の魂は平等」、中国は「生前の罪は死んだ後も覚えておくべき」と考えているとされる。だから、中国は堂々と「拝鬼」という言葉でそれを描写するのだ。
最近は中国メディアどころか、中国の政府首脳も庶民のウケを狙ってこういう俗語を正式な場所でちらり、と言い放つ。胡錦濤前主席が不器用に「折騰」という言葉を使った時も世間は湧いた。「折騰」とは中国語というよりも中国北部の表現で、「同じことを何度も繰り返す」「行きつ戻りつ」「前進できずに定位置で足踏みし続ける」といった、「なにかをしたいのにどうしても先へ進めない」状態の苦しみを指す。胡はそれを否定的に使って「中国はこのまま同じ轍を踏み続けてはいけない。」と言ったのが庶民に大受けした。
こんなちょっとした言葉は庶民に親近感を持たせ、人々がさらに耳を傾けるようになる。ニュースタイトルの「安倍拝鬼」も似たようなものだ。さらに、この文字だけで安倍首相に陰湿さ、腹黒さを感じてしまうという相乗効果は、伝えたい側にとって一石二鳥。だからこそ、第一報の数十分後には、さまざまなメディアが「拝鬼」をタイトルに並べて安倍首相の靖国訪問を伝えた。
だが、新華社は当初はきっと想像もしていなかったはずだ、この「拝鬼」の論調が少しずつ違ってくるとは。
「政客の靖国神社参拝に激しく抗議する」
「政客の拝鬼は、心のなかに鬼がいるからだ。もし本当に心から拝鬼するのであれば、拝まれた鬼も慰められるだろう......国を強大化したいと思うなら、決して『鬼』の力に頼ってはならない。最終的に陽気を吸い取られ、身を滅ぼすだけだ」
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