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「SHERLOCK シャーロック」ブームに思うこと - ふるまい よしこ 中国 風見鶏便り

ニューズウィーク日本版 / 2014年1月23日 8時5分

 だが、前述したとおり、この頃のネット動画サイトに流れているのはほとんどすべてと言っていいほど海賊版のテレビドラマや映画だった。海外のドラマや映画は香港や台湾などで中国語字幕付きで放映されたもののコピーだったが、2005年を越えた頃から、海外留学中の人たちが現地で録画したものに、これまた海外留学帰り、あるいは中国のドラマファンたちのグループが作る「字幕組」が手弁当で分担して字幕を作って貼り付けるという作業フローが生まれる。英語や日本語や韓国語などのドラマがそれぞれ熱意のあるファンたちによって次々と字幕をつけられて、動画サイトや街角のCD売り屋の店頭に並んだ。もちろん、中にはひどいレベルの字幕もあったが、「もともと観ることが出来ない」ことを考えれば、みなブツブツ言いながらも人気番組や映画を探していた。

 もちろん、文化及び商業コンテンツの保護からすればもってのほかであることは知っている。それを手放しに褒めるつもりはない。だがちょうどこの頃、わたしはこんな経験をした。

 作品が次々と海外で賞を採って注目を浴びつつあったある中国人映画監督の取材をした時のことだ。当然彼の作品に目を通す必要があった。だが彼の作品は当局が定める映画製作の検閲を受けずに撮られていたため、国内では作品を公開することができない。しかたないので、わたしは取材前に日本やその他の国ですでに発行されていた彼の作品ビデオを、友人の協力で手に入れて目を通したのだが、彼に「次回からはぼくに言ってくれれば、コピーしてあげるから」と言われた。実際にわたしの手元にはその取材後に彼からもらった中国語字幕、自分で買った韓国語字幕、そしてその後日本で出た日本語字幕の3バージョンの同じ作品がある。彼は香港で上映された中国語字幕付きのビデオを持って、中国国内の大学の学内放映会に呼ばれて上映していた。

 そうして親しくなってから、「こんなことを監督に言うのは失礼かもしれないけど、わたしがあなたの新作を手に入れたいとき、街角で売られている海賊版を買うべき? それとも『コピーをちょうだい』って言ってもいいのかな?」と尋ねた時、彼はにっこり笑って事務所の棚を開けて、そこに並んでいたDVDを見せてくれた。彼の作品の海賊版だった。街角のDVD屋で買ったのだという。「自作の海賊版をお金を払ってわざわざ買うの?」と驚いているわたしに、彼はこう言った。

「これは韓国で出たDVDをコピーしたもの。でもパッケージは韓国のそれとぜんぜん違う。どこかで受けた雑誌のインタビューからぼくの言葉をコピーして貼り付けてあって、これを手に取る人のために解説がついている。字幕だって彼らが自分で作ったもののようだ。つまりね、これは海賊版だけれど、これを作って売ってる人は映画が好きなんだよ。大好きな作品をみんなに見て欲しいと思っているけれど、さまざまな規制があって目にすることができないから、自分たちでその壁を乗り越えようとしてるんだ」

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