3Dプリンターでシリアの戦場に義肢を
ニューズウィーク日本版 / 2014年9月29日 12時24分
ロボハンドの義手は耐久性にも優れている。バンアズによれば耐久年数はまだ不明だが、起業当時に作ったものは今もしっかり機能しているという。
経営は半ば慈善事業で、富裕国の顧客が支払う代金などで貧しい人々の分を賄う仕組みだ。さらに誰もが自前の3Dプリンターで製作できるよう、ロボハンドはデザインをオープンソースとして公開している。ただこうした動きは業界の反感を買っていると、バンアズは言う。
バンアズが万人に好かれる人間でないことは想像に難くない。せっかちで厚かましく、口も悪い。だがシリアで目撃した惨状には心を痛めた。「兄弟同士で戦うなんてバカげてる」と、トルコ側からイドリブの丘を見詰めながら彼は語った。
内戦がシリアに与えた打撃は甚大だ。NSPPLの理事を務めるマーロス・アルスード医師によれば、手や脚を失った人々は2万人近くに上るという。
NSPPLは当初、義手より安く作れる義足の提供のみを想定していた。だが噂が広まるにつれ、上肢を失った人々が旅費を工面し、危険を冒して診療所を訪ねるようになった。
「最初は(義手の製造に)消極的だった」と、アルスードは言う。「だがロボハンドなら耐久性に優れ、手の機能の一部を補える義肢を良心的な価格で作れるのではないかと気付いた」
エブリ・シリアンのファイサルはSNSのフェイスブック経由でバンアズにコンタクトを取り、そこからNSPPLとロボハンドのプロジェクトが生まれた。「人を送るから技術を教えてくれないかと頼むと、自らシリアに出向くとバンアズが申し出てくれた」と、彼は振り返る。
支援団体や企業とタッグを組み、バンアズは技術を携え世界を回る。昨年はエベリングが先頭に立ち、やはり内戦が続く南スーダンのヌバ山地にロボハンドの診療所を設立した。
バンアズに学んだ技術を、エベリングは現地の若者8人に伝授。若者たちの覚えが早かったのは、ロボハンドの設計が「シンプルで卓越している」ことの証しだと彼は言う。
南スーダンのクリニックは、たちまち週1本のペースで義手を作り始めた。戦闘の激化で12月に一時休止したが、活動は続いているという。
戦闘と税関に翻弄されて
だがシリアの危険度はスーダンとは比較にならない。それでもシリアに行くと決めたのは必要とされたからだったと、バンアズは言う。「政府に頼まれてもアルカイダに頼まれても、私は行く。人種も信条も階級も関係ない。支援を受ける権利はすべての人にある」
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