文革に翻弄された私の少年時代
ニューズウィーク日本版 / 2015年9月3日 17時15分
父は、共産党の政権下では「経歴がいい」人物である。きっと、若い女性にかなりモテたはずだ。それが5歳も年上、しかも、前夫との間に2人の子供がいた母を好きになり、結婚した。息子の私が言うのも何だが、母はそれほど魅力的だった。彼女の写真を今も時折見返すが、私とそっくりのくっきりとした目鼻立ちで、笑うと実にチャーミングな人物だった。
見た目だけではない。母は国語教師として、当時、中国で深刻な問題だった文盲(文字の読み書きができない人のこと)をなくすことに力を尽くす人でもあった。今になって思えば、父の文人としての才能は作家としての私に、そして、母の社会に貢献する意思は、政治家としての私に引き継がれているように思える。
結婚した後、両親の間には私を含む2男1女が生まれた。母が前夫との間にもうけた1男1女とともに家族7人、まずまず幸せに暮らしていたわが家に突然襲いかかったのが、文革の嵐だった。
父は、造反派ナンバー3として活躍していた最初の数年間、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。当時、政治闘争でたくさんの大人が監獄に入れられ、あるいは下放政策によって農村に送られたため、街は通常の機能を失っていた。中国人映画監督のチアン・ウェンが文革をテーマに撮った『陽光燦爛的日子(邦題:太陽の少年)』という映画をご存じだろうか。子供たちが街を支配する、まさにあの世界だ。学校はすべて授業を行えず、私たち一家はしばらく校舎に住んでいたこともあった。校庭で好きなだけ、日が暮れるまで友達と遊んだ。
ある晩、学校に水道水を盗みに来る人たちが、順番争いで喧嘩になったことがある。見かねた父は例のピストルを取り出し、騒ぎのほうの空に向かって2回発砲した。秩序を取り戻すため立ち上がった父を見て、6歳の私は単純に「すごい!」と感心したものだ。
英雄だった父が「反革命分子」に
あるとき、どこからかやってきた「歌舞団(バレエ団)」が、私の通っていた小学校を宿舎にして練習していた。文革当時、毛沢東の妻で悪名高い江青(こうせい)が熱心に「革命バレエ」を普及しようとしていて、各地で歌舞団が毛沢東や共産党を讃美する踊りを熱心に練習していた。
私がこのとき見た歌舞団も、そのひとつだった。彼らの様子を教室のドアの隙間からこっそり見て、その音楽とダンスがいっぺんに好きになった。歌や振り付けを真似して、衣装の帽子がなければ代わりにタオルを頭に巻いて、すっかり彼らの演じる「革命戦士」になりきった。私はのちにバレエダンサーとして湖南省の歌舞団に所属することになるのだが、そのきっかけは明らかに、このときの「のぞき」体験にあった。
この記事に関連するニュース
-
習近平は「総書記」と「国家主席」どちらが正しいのか?...中国政治システムの「本音と建前」
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月19日 16時40分
-
共産党元高級幹部の薄熙来氏息子が台湾人女性と結婚へ、中国では情報封鎖―台湾メディア
Record China / 2024年11月17日 20時0分
-
会議めぐるブログ記事で共産党「追放」 「ご飯論法」作者・神谷貴行氏が提訴前に語った「党の存在意義」
J-CASTニュース / 2024年11月11日 21時0分
-
【2015(平成27)年11月7日】中国と台湾が初の首脳会談
トウシル / 2024年11月7日 7時30分
-
習近平の理想は始皇帝、台湾併合は中華統一の一環 強国を目指した始皇帝の思想を中国共産党が踏襲
東洋経済オンライン / 2024年10月26日 15時0分
ランキング
-
1ガザ全域をイスラエル軍が攻撃、48時間で少なくとも120人死亡…レバノンでは空爆で20人死亡
読売新聞 / 2024年11月24日 18時47分
-
2“子どもを持たない選択”「チャイルドフリー」宣伝禁止 プーチン大統領が法律署名
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月24日 21時22分
-
3ウクライナ制圧のクルスク州、ロシアが40%を奪還=ウクライナ軍
ロイター / 2024年11月25日 7時40分
-
4ロケット弾200発超を発射 ヒズボラがイスラエルに応酬
共同通信 / 2024年11月25日 8時29分
-
5英新兵器、日本に購入打診 「反撃能力」向上を視野
共同通信 / 2024年11月24日 16時17分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください