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『海よりもまだ深く』是枝裕和監督に聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年5月17日 16時20分

 それは罪滅ぼしみたいなものだった。先生をばかにしていて、国語の授業中にあからさまに別の小説を読んだり、さぼったりしていた。面談で「是枝さんは僕の授業がつまらないですか?」って聞かれて、「つまらないですね。先生はいつも自分の考えを述べずに、生徒が何か言えば『そういう捉え方もありますね』で済ます。それが面白くない」って言ったの。

 先生は「教師という立場の自分が何か言うことで、生徒の自由な発想を否定したくない」というようなことを、もごもごと言ったわけ。そのときは「こいつ逃げているな」と思った。でも自分が物を作るようになってから、遠藤先生が言っていたのはこういうことかと気が付いたんです。作品のテーマを語ってしまうことが、いかに作品から離れていくかということに。作り手が「この作品のテーマはこうです」と言うことはたぶん抑圧的に働いて、見る人にとってはよくない。

 だから「先生の言っていたことが正しいと分かった」と手紙を書いた。そうしたら返事が来て、作品の鑑賞チケットを送ったら感想が来て、ということがずっと続いている。やっぱり失礼だったからね、自分の態度は。




大橋 希(本誌記者)


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