いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く2(イースターのハイチ)
ニューズウィーク日本版 / 2016年5月31日 15時0分
しばらくぼんやりしながら入り口にあったソファに座っていると、やがて一人の若干ぽっちゃりした白人男性が半ズボンにTシャツ姿であらわれた。ほとんどスキンヘッドでいかにも清潔そうな人物だった。
「やあ、ようこそ。ヒロコとセイコーだね。話は聞いてるよ。僕はポール。ごきげんいかが?」
彼の英語は聞き取りやすく、きわめて優しげであり、語尾の調子と仕草が女性的だった。細いフレームの丸い眼鏡をかけていて、顎ヒゲの剃り跡が青く、目はつぶらでまつげが長かった。ちょっとトルーマン・カポーティに似ていた。
谷口さんが挨拶をし、僕も握手をかわした。ポールは早口で続きをしゃべった。
「しかし君たちにとって実に残念なことに、この週末までイースターでね。ちょうどみんな休暇をとっている時期なんだ。だからほとんど人がいないんですよ。ただし僕だってゲストの受付は出来るからね。わかるところまでやっておきましょう。そのうち誰か来るだろうと思う」
ポール・ブロックマン。アメリカ人。おそらく僕より四、五才上ではないか。五十代後半で、歴戦の強者だろうことは、そのせっかちで自由なふるまいからもわかった。世界のどこにいてもそういう調子なのだろうと思わせる独特なペースがあるのだ。
なにしろ彼がつまり、OCAハイチ・コーディネーション・オフィスのトップ、産科救急センター、救急・コレラ治療センター、性暴力被害者専門クリニックを統括している重要な人物なのだった。
校長先生の講義1
ポールに細かい手続きをしてもらって食事の話になった。とにかくイースターはハイチにとって大きな祭りで、宿舎に行ってもまかないの昼食がないとのことだった。
いや、機内で食べてきましたからと言うと、「しかし夕食はどうする? ないよ」と答えてポールはどこかへ消えた。
我々は谷口さんの提案で、こちらでちょうど活動をしている看護士の菊地紘子さん(しばらく、「もう一人のヒロコ」とみんなにからかわれることになる。むろん広報の谷口博子さんの方がそう呼ばれることもあって、コーディネーション・オフィスには楽しい混乱が何度かあった)と待ち合わせて、彼女たちにとってあまり機会の多くない外食に出かようということになった。谷口さんはまだ会ったことのない紘子さんに電話をし、約束を取りつけた。
それにしても待ち合わせまで数時間あった。
ならばオフィスにいる他のスタッフにインタビューしてから宿舎へ行こうということになったものの、相手の手があくまでに時間がかかった。
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