欧州ホームグロウンテロの背景(3) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月17日 16時20分
第三世代の台頭を間接的に支えたのが、米国の迷走だった。アフガン攻撃でアル・カーイダを壊滅に追い込んだ米ブッシュ政権は、勢いに乗ってイラクに攻め込み、フセイン独裁政権を崩壊させた。跡地には権力の空白地帯が生まれ、過激派組織「イスラム国」が根を張り、ジハードにとってまたとない空間を提供した。欧州でイスラム過激思想に関心を持つ若者たちを呼び込み、訓練する場所としてである。しかも、アル・カーイダ時代のアフガニスタンより、そこは欧州にずっと近い。
「フランスからシリアには、車でも行けますからね」
ケペルによると、南フランスのトゥールーズで過激派の二家族が所得証明を偽造し、偽名のクレジットカードを入手した。それを使って彼らは大手レンタカー会社からキャンピングカーを借り、そのままシリアまで乗っていってしまったという。冷房付きで、購入すると三万五〇〇〇ユーロほどの車だが、実際に彼らが払ったのはレンタル代一〇〇〇ユーロと保証金三〇〇〇ユーロ程度だった。最初から返却するつもりなどないのである。
【参考記事】2万人殺しても2万人増えるISISに米軍は打つ手なし
予言は的中した
フランスでは九〇年代半ば、アルジェリアの「武装イスラム集団」によるテロが相次いだ。しかし、パリの高速地下鉄で九五年十月、座席に仕掛けられた爆弾が爆発して約三〇人がけがをした事件を最後に、イスラム過激派によるテロは十六年あまりにわたって途絶えた。この間、マドリードやロンドンでは大規模テロが起きたことから、フランスの治安対策や移民統合政策を評価する声が少なくなかった。
沈黙を破ったのは二〇一二年三月、南フランスのトゥールーズ周辺で起きた連続射殺事件である。ユダヤ系学校の教師や子どもら七人が至近距離から銃殺され、容疑者のモアメド・メラは警官隊との銃撃戦の末に死亡した。メラは「アル・カーイダ」を標榜し、アフガニスタンや中東各国への渡航歴があった。
この事件は当時、孤立した出来事として扱われた。しかし、ケペルはこれを、フランスでの第三世代ジハードの始まりと位置づける。
「メラの事件は、スーリーの理論がフランスで実行に移された最初の例です。これを機に、テロのビジネスモデルが変わった。でも、当時誰も、それに気づきませんでした」
続いて二〇一四年五月、アルジェリア系フランス人の過激派メディ・ネムシュが、ブリュッセルのユダヤ博物館で旅行者ら四人を射殺した。これらの事件と同じ流れの上にあるのが、クアシ兄弟による『シャルリー』襲撃とアメディ・クリバリによるユダヤ人スーパー立てこもりである。
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