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欧州ホームグロウンテロの背景(3) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年6月17日 16時20分

 欧州で、この戦いに参集する人材が絶える気配はない。

「フランスで第二世代の活動家は何十人かの規模でしたが、第三世代は何千人といます」。しかも、それは移民家庭出身者に限らない。「かなりの数の改宗者がいるのも、最近の傾向です」とケペルは説明する。

「また、かつての右翼や左翼からイスラム過激派に転じる人も少なくありません。農村社会にサラフィスト(イスラム復古主義)の集団が生まれたりもします。イスラム過激派は、かつての反基地闘争などに代わる存在となりました」

 マルクス主義の夢破れた左翼の中に、イスラム主義を新たなイデオロギーと見なして支持する人がいるといわれる。反米や反グローバル化の主張に重なる面があるからだ。中東でも、イスラム主義の勃興は、社会主義的傾向が強かったかつてのアラブ・ナショナリズムの退潮と結びついている。

 ケペルが懸念を抱くのは、イスラム過激派やテロリストに対し、移民排斥を訴える右翼が過剰な反応を示すことだ。

「一方にフランスの『国民戦線』のような右翼が存在し、もう一方にイスラム教徒の強硬派が存在する状況で、もし『国民戦線』が自治体の政権を握ると何が起きるか。その地域に暮らすイスラム教徒たちが一斉に反発し、国家への拒否感を示すようになるかも知れません。それこそスーリーの狙い通りです。フランス社会に亀裂を生じさせ、内戦状態に持ち込むことこそ、彼が望んでいることなのですから」

【参考記事】テロ後のフランスで最も危険な極右党首ルペン

 テロは、社会の分断を狙うイスラム過激派の挑発である。それに乗って攻撃をし返すと、過激派の罠にはまる。しかし、右翼は自らも、社会の分断を通じて地位を固めようとする。つまり、欧州社会はテロリストと右翼双方から分断の危機にさらされているのである。

 現在のフランスを見る限り、イスラム教徒の大衆がテロリストたちに同調する気配はうかがえない。フランスのムスリム(イスラム教徒)社会は一枚岩だと言い難く、そもそも、世俗化した家庭やブラックアフリカ出身のキリスト教徒の家庭、単なるフランスの低所得者も混在する移民街に、「ムスリム社会」と呼ぶべき集団が本当に存在するかどうかも怪しい。イスラム教徒が最も集中して暮らすパリ北郊の県番号九三「セーヌ・サンドニ県」を舞台とするケペルの二〇一二年の著書『九十三』(Quatrevingt-treize)は、過激派を含む各団体が暗躍する近年のムスリム系移民の世界を活写している。ヴィクトル・ユーゴーの名作『九十三年』に恐らく引っかけただろう題名を持つこの本によると、八〇年代末から二〇〇〇年代にかけてフランスを揺るがした学校での女生徒のスカーフ着用運動も、自らの権利を求めるイスラム教徒らの総意によって進められたというより、ムスリムたちの間でヘゲモニーを握ろうとする団体間の争いの道具とされて広がった面があるという。

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