欧州ホームグロウンテロの背景(4) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月18日 11時14分
過激派側は「フランスでイスラム教徒は虐げられている」などと主張し、自分たちがムスリム一般の代表であるかのように振る舞う。しかし、これは暴力を正当化するための単なる口実に過ぎない。もちろん、口実を設けられないよう、格差を是正したり差別をなくしたりする努力は重要だが、それで彼らがテロをやめるわけではない。閉鎖的なテロ集団が何を狙い、どう動くか。その戦略をしっかり把握し、対策を練る姿勢が欠かせない。
問題は、政府や当局がそのような危機感を抱いているかどうか。ケペルは悲観的だ。
「欧米諸国の政府は、過激派の戦略が変化したことを全然理解していません。選挙と関係ないから、政治家たちは関心を示さないのです。何か問題が起きると、あわてて絆創膏かアスピリンで対応する。だけど、それが本当の病気なら、原因をきちんと究明しなくてはなりません。症状を分析し、抗ウイルス薬で治療すべきなのですが」
ケペルはかつて、欧州と中東が「歴史と文化遺産を共有している」として、共通の文明圏を築くべきだと提言してきた。ただ、もはやそのような楽観的な立場は取りえないという。
「ある時期までそのように信じてきました。しかし、『アラブの春』以降、状況は恐ろしいことになりました。シリア、イラク、イエメンで国家の機能が消滅し、激動期に入っています。クルド人との対立を深めるトルコの将来も予断を許さない。以前の提言は通用しません」
ならばこれからどうしたらいいのか。
「第一、第二世代が失敗したように、第三世代も長期的には成果を生まないでしょう。ただ、その後の世代交代がどこまで続くか。すべては、イスラム教徒自身が過激派の思想を拒否することから始まります。その営みなくして、イスラム過激派の活動が消え去ることはありません」
パリ同時多発テロの後で
このインタビューでケペルと会ったのは二〇一五年九月のことである。その二カ月後の十一月十三日、パリで一三〇人の犠牲者を出す同時多発テロが起きた。『シャルリー・エブド』事件で傷ついたフランスにとって、同じ年に受ける二度目の衝撃だった。
この日夜、独仏のサッカー親善試合が開かれていたパリ北郊サンドニのスタジアム周辺で三人が自爆し、市民一人が巻き添えになって死亡した。ほぼ同じ頃、市内東部の三カ所の飲食店が銃を持った男らに襲撃され、計三九人が死亡、別のカフェで一人が自爆した。また、ロックコンサートが開かれていたパリ中心部のホール「バタクラン」には三人が押し入って観客らを狙撃し、九〇人もの犠牲者が出た。容疑者の多くは、ベルギーやフランスの移民家庭の出身だった。
この記事に関連するニュース
-
クルド人の「迫害と弾圧」は今も続いているのか トルコ政府「問題は民族でなくテロ組織」 「移民」と日本人 クルド人が川口を目指す本当の理由④
産経ニュース / 2024年11月27日 11時30分
-
和平合意10年、疎外されたままの先住民 フィリピン・ミンダナ、収奪された土地
共同通信 / 2024年11月23日 8時8分
-
結局「ポピュリズム」とは何なのか...世界中が「極端な政党」に熱狂する理由
ニューズウィーク日本版 / 2024年11月20日 17時20分
-
「アフリカの実情を伝える、むきだしの喜怒哀楽」三浦英之×須賀川拓『沸騰大陸』
集英社オンライン / 2024年11月10日 12時0分
-
イスラム過激派が解散集会 インドネシア、非暴力説く
共同通信 / 2024年11月3日 16時53分
ランキング
-
1ウクライナ軍が米供与の「ATACMS」でロシア西部を攻撃 ロシア国防省が発表
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月27日 10時12分
-
2メルケル前独首相、欧米協力訴え 中ロの脅威、トランプ氏にも懸念
共同通信 / 2024年11月27日 7時52分
-
3韓国の女子大で共学化に反発した学生が大暴れ、被害額は6億円に=韓国ネット「デモではなく暴動」
Record China / 2024年11月27日 9時0分
-
4ドイツ・メルケル前首相が回顧録「トランプ氏はロシア大統領に魅了されていた」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2024年11月27日 11時32分
-
5ラオスで“メタノール入り酒”飲んだ外国人観光客6人死亡 宿泊施設オーナーら8人を拘束
日テレNEWS NNN / 2024年11月27日 12時38分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください