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欧州ホームグロウンテロの背景(4) 現代イスラム政治研究者ジル・ケペルに聞く

ニューズウィーク日本版 / 2016年6月18日 11時14分

 その五日後、首謀者と目されたモロッコ系ベルギー人アブデルアミド・アバウドは、潜伏していたサンドニのアパルトマンで警官隊と銃撃戦を繰り広げた末に死亡した。

【参考記事】ドキュメント:週末のパリを襲った、無差別テロ同時攻撃
【参考記事】ベルギー「テロリストの温床」の街

 ケペルはこのテロの後、フランス各紙のインタビューに応じている。それによると、このテロも基本的にスーリーの理論に沿う形で実行されたと、彼は考えているようだ。ただ、標的が明確に定まっていた『シャルリー』の場合とは異なり、無差別の大衆を狙った側面が強くなった、とも指摘している。

『リベラシオン』紙のインタビューで、彼はテロリストの意図をこう分析した。

「彼らが狙ったのは、嫌イスラム傾向の強い右翼を刺激し、イスラム教徒に対するリンチを誘発させることだった。スカーフをまとったイスラム教徒の女性が襲われるだろう。イスラム教の戒律に沿ったハラールを商う店が焼き打ちに遭うだろう。本来『イスラム国』と何の関係もないイスラム教徒も、このような『嫌イスラム』意識に直面して、ジハードに合流するに違いない――。彼らはそう考えた」



 もっとも、テロリストらの当ては外れた。確かにイスラム教徒に対する嫌がらせや脅しは一部で起きたが、フランスを覆う流れにはならなかった。多くのイスラム教徒は、右翼よりもテロリスト側に嫌悪感を抱き、容疑者らを非難した。『シャルリー』事件の際にはまだ、テロリスト側の訴えが一部のイスラム教徒を引きつけたが、今回のテロは逆に、彼らの離反を促したのである。

「テロリストらは結局、大衆の動員に失敗した」

 今回のテロに標的がなかったわけではない。一つは「バタクラン」だ。十九世紀半ばに建てられて東洋風の奇妙な外観を持つこの劇場は、かつてユダヤ系が所有し、イスラエル支援のイベントの会場としても使われた。「ユダヤ人の施設」として、過激派らしき人物から脅迫を受けたこともある。また、襲撃を受けたカフェやレストランはいずれも、この地域に住む裕福な左派系インテリのたまり場だった。「ユダヤ人」「リベラルな知識人」は、スーリーが定めた標的通りである。ただ、『シャルリー』の時と違い、そうしたメッセージが伝わらないほど、今回は被害が大きい。犠牲者には、イスラム教徒の若者も含まれた。

 テロリストらがこのような犯行に及んだ背景を、ケペルは『ルモンド』紙のインタビューで説明した。

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