いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く5 (スラムの真ん中で)
ニューズウィーク日本版 / 2016年6月22日 18時0分
修羅場で医療する
我々をここで迎えたのはデルフィネ・アグヤナというフランス人女性だった。落ち着いた雰囲気の彼女が、そのかなり緊迫した病院をOCBの管轄下で運営しているプロジェクト・コーディネーターとのことだった。あとから聞いた話だが、マフィアの抗争が絶えない地域で無料医療を行っているとなれば、修羅場は常にある。それを日々切り抜けているスタッフにはしかし、まるでそれを予感させない柔らかさが備わっていた。
その救急・容態安定化センターで、彼らは一年に六万人の患者を看ているそうだった。もちろん無料で。コンテナ・ホスピタルからすれば面積はさほど広くないから、20人だというスタッフはさらにてんてこまいに違いなかった(うち、外国人派遣スタッフは6人)。
(写真は現地スタッフ看護師)
施設はコンクリ、机や椅子は木で出来ていた。なんだか子供の頃に見た小さな医院のようだった。内部を見せてもらいながら、俺はデルフィネさんから「現在、ハイチ保健省と合同で運営する72床の病院を作ろうとしている」と聞いた。国の予算も合わせられれば、もっと有効な医療が出来るだろうとのことだった。
「僕らも子供のために、それが早く出来てくれればと思う」
後ろでダーンがそうデルフィネさんに言った。
「自分たちの施設だけで未熟児を看ているのにはもう限界があるから」
前回書いた乳幼児の病床不足を、ダーンは再び強調した。菊地紘子さんもシリアスな表情でデルフィネさんを見上げ、何度もうなずいていた。最初の日にポール校長から聞いた「震災直後とは違って、我々MSFは他の団体とは異なる働きをすべきだと思う」という考えのひとつがそうした合同作業への呼びかけにつながるのかもしれなかった。国が被災者や、その後生まれた患者の面倒を看るよう、MSFがバックアップするのだ。
そして、やがて彼らは撤退し、ハイチ政府自身が国民の医療をすべて担う。MSFの究極の願いがそうであることを、俺はのちの取材でも耳にした。
話題にあがった小児科の診察室にも我々は入った。週末なのでちょうど人がはけたところだと言って、ハイチ人医師フェネルス・ジャン・マルクが木の椅子に座ったまま、にこやかに我々を出迎えた。狭い一室だった。途端にダーン、菊地さん、デルフィネさんたちがフランス語で何かしゃべり出した。小児のケアのことだろうと思われた。あらゆる機会に彼らはディスカッションするのだった。
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