いとうせいこう、『国境なき医師団』を見に行く6 (パーティは史上最高)
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月4日 16時50分
屋上に出ると、周囲が見渡せた。高い建物がひとつもないからだった。民家の屋根が続く先に低い山並みが見えた。
その屋上の、一段高くなったスペースに長い木のテーブルが置かれていて、そのまわりに7、8人の外国人スタッフたちが立っていた。すでに皿などが配置され、専用のオーブングリルまであって、そこで串に刺した牛肉らしきものやホイルに包んだ何かが焼かれていた。彼らはその屋上でだけ安全を確保されていた。
俺たちがそこへ近づいていくと、各自が実に自然に手を上げたり、にっこり微笑んだりした。すぐに話しかけてきてくれたのは、スウェーデンから来たというアナ・ブライドマンという小柄な女性で、確か30代前半だと言っていたように思う。金色の髪を風になびかせて、彼女は人懐っこく自分のブログの話をし、また俺の話を聞いた。彼女自身、それが初めてのMSFのミッションだと語ったはずだ。
少しずつどこか曖昧なのは、俺が帰路に着くまで一切メモを取らなかったからだ。俺は取材者として彼らに接する気がなくなっていた。なぜなら彼らが俺を外部者でなく、あたかもMSFの新しいスタッフのように受け入れたから。そしてまた、俺としてもせっかくの彼らのパーティに水をさしたくなかったから。
さらに言えば、俺は彼らのキャラクターを忘れない自信があった。ひとめでそう思うくらい、実際に彼らは独特な人間味にあふれていた。
(個性豊かなMSFスタッフたち)
だから俺はグラスを片手に、下手な英語をやたらにしゃべった。谷口さんもすぐに通訳として俺に付いている必要がないと判断したらしく、あちらこちらで会話をし始める。面白いのは、他ではフランス語をしゃべるメンバーが紘子さんには片言の英語で話しかけることで、なんとそれはフランス語に堪能な紘子さんが英語も習得したいと願っているからこその、スタッフたちの気遣いなのだった。
ここでは、すべてが何かのためなのだと俺は思った。
グリルを支配しているのは、俺より年上の体の大きなオランダ人でフェルナンド・シッパーズと言い、みんなにフェリーと呼ばれていた。とても滑らかな英語を聞き取りやすく発音してくれる人で、銀髪のスティーブン・セガールみたいな男だった。ちょっと危険な冗談を言っては、フェリーは片目をつぶってみせた。彼はロジスティックのベテランっぽく、いかにも宿舎のリーダーという感じだった(実際の役職はプロジェクト・コーディネーターで、産科救急センターの責任者)。
「頭の上に気をつけていた方がいいよ、セイコー。ハイチでは何かあると、それがいいことでも悪いことでも天に銃を向けてバーン!だ。で、その銃弾はどこに落ちると思う?」
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