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ロシアの介入はないと無責任な約束をしたドイツ――第一次世界大戦史(2)

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月9日 11時3分


『第一次世界大戦史――諷刺画とともに見る指導者たち』
 飯倉 章 著
 中公新書


※シリーズ第1回:テロリストの一弾が歴史を変えた――第一次世界大戦史(1)

◇ ◇ ◇

カイザーは「白紙小切手」を渡したのか?

 七月五日、ポツダムの宮殿でカイザーは、ドイツに協力を求めるフランツ・ヨーゼフの親書を携えたオーストリア大使に面会する。大使によれば、カイザーは慎重な物言いをしていたが、昼食を挟んだ二度目の謁見では、宰相の同意を条件としながらも、オーストリアは「ドイツの全面支援を当てにしてよい」と確約したという。

 さらにカイザーは、対セルビアの行動は「遅延されるべきではない」と釘を刺し、背後にいるロシアと戦争になった場合、ドイツがオーストリア側に立つことを信じてよいとも伝えたとされる。これが世に「白紙小切手」と言われる約束であった。

 翌六日、カイザーは毎年恒例である北欧へのヨット旅行に出かける。後を受けたドイツ帝国の宰相テオバルト・フォン・ベートマン=ホルヴェークは、オーストリアの大使と外相特使へ公式に返答した。大使の要約によれば、そのなかでベートマンは、彼もカイザーも、オーストリアがセルビアに直ちに干渉するのが「最善かつもっとも根本的なバルカンでの問題の解決方法」であると伝えたという。

 後世の一部の論者は、この一連のやりとりで、ドイツの皇帝も宰相も、オーストリアが控え目な措置を意図していたのに、それ以上の行動を煽ったと指摘した。オーストリアを戦争へと導き、それがロシアの介入を招き、連鎖的に世界大戦にいたらしめたというのである。ただ、こんにちの歴史家が明らかにしたのは、この時点でドイツの指導者たちは、オーストリアがセルビアに戦争をしかけたとしても、ロシアの介入がないと信じており、またその介入を誘発する意図もなかったことである。カイザーは、北欧へ旅立つ前に「今回のケースで、ツァーがレジサイド[国王殺害者。ここでは、前国王がクーデターで殺害されたセルビアを示す]の側に身を置くことはないだろう。おまけに、ロシアもフランスも戦争の備えができていない」と語ったという。

 つまり、ドイツはロシアと戦争するリスクを冒してまで、セルビアに対して強硬措置をとるようオーストリアに求める気はなかったのである。もしもドイツ側に責められる点があるとすれば、オーストリアに対して、いい加減な約束をし、なすがままに任せた無責任さにあると言えるかもしれない。

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