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ゲーム研究の現在――「没入」をめぐる動向

ニューズウィーク日本版 / 2016年7月17日 15時28分

 さてこうしたゲーム研究も、新たなディシプリンとして誕生してからおよそ二〇年が経過した。日進月歩の学問の世界では、もはや「若い」とは言えない。実際、一昔前までは、刊行文献のほとんどに目を通すことも不可能ではなかったが、今ではリストアップも追いつかないくらいに、文献の数もふくれ上がっている。それだけ研究者や関連学会の数が増えたということだ。情報のキャッチアップはたいへんになったが、とても喜ばしいことである。

 二〇一〇年代に入ると事典や手引書も刊行され、ゲーム研究は体系性とそれ自体の歴史を備えた学問領域として完成されつつある。かつては著名な研究者の著作や論文集を押さえておけば、主要な研究主題と状況が理解できたが、それが困難になるほどに文献の数が増えてくると――とくに初学者には――リファレンスの類が必須となる。マーク・J・P・ウォルフ編『ビデオゲーム百科事典(Encyclopedia of Video Games)』(二〇一二年)は、一〇〇名近くの執筆者による三〇〇以上の項目を含む、この分野で初めての事典だ。またマーク・J・P・ウォルフとベルナール・ペロン共編『ラウトレッジ版ビデオゲーム研究必携(The Routledge Companion to Video Game Studies)』(二〇一四年)は技術、形式、プレイ、一般、文化、社会学、哲学という七つの側面に分類された、六〇のトピックを扱っている。

 これらの著作がタイトルに「ビデオゲーム(video game)」を含むことも見逃せない。「コンピュータゲーム」でも「デジタルゲーム」でもなく、わざわざこの語が選ばれている理由は、そこで取り上げられるゲームが――聴覚や触覚にも作用するとはいえ――基本的に「視覚的」表象に基づくものであるからだ。ここには、映像メディア研究(主に映画とテレビの理論)の蓄積を継承し、そこにインターフェイスやプレイヤー行為、アルゴリズムといった新たな観点を追加することでゲーム研究の土台を築いてきた、編者ウォルフ自身の経歴と思想が表現されている。



 さて現在のゲーム研究の中で、ゲームの社会的活用やその物語構築の独自性などと並んで、もっともホットなテーマの一つに「没入(immersion)」がある。没入とはゲームの世界にのめり込むことであり、「没入させる(immersive)」という形容詞は、最近のゲームの宣伝によく見られる売り文句にもなっている。また没入は「臨場感(presence)」の同義語としてVR(バーチャルリアリティ)研究の文脈でも使用されてきた。しかしながら、没入がプレイヤーとゲーム世界との「距離」を無化するのか、そのときプレイヤーは「現実と虚構の区別」ができなくなるのか、といった点をめぐっては今も議論が絶えない。

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