資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月21日 17時50分
資本主義の基本原理が揺らいでいる
さらにいえば、この物欲レスの傾向は日本だけでなく世界の先進都市で見られます。
例えば家。ニューヨークでは分譲マンションでは中古の狭い部屋でも数億円しますし、賃貸住宅にしてもマンハッタンやサンフランシスコ、ロンドンといった都市では平均家賃が40~50万円に上ります。これだけ不動産価格が高騰すると若い世代は持ち家をあきらめざるを得ず、結果として家に対する購入意欲は低下しています。そうなると増えるのがシェアハウスです。ロンドンではシェアハウス率は60%以上に上り、若者だけでなく幅広い年代に利用されています。先進都市ではカーシェアも人気ですね。
こうした現象からは、単にモノへの欲望がなくなったというだけでなく、人々の幸福感も変わってきていることが感じられます。今まで何のためにモノを買うかといえば、それは幸せであることを自他ともに認識するためでした。大きな家に住んでいる、高級車に乗っている、ブランドものの服を着ているといったことが幸せの物的証拠だったし、その幸せを経済の最大のモチベーションにして僕らは生きていたわけです。
しかし、ソーシャルメディアの普及で個々の人格や生活の中身が可視化され、浪費的な消費が意味をなさなくなった。それはつまり資本主義の基本原理が揺らぎ、問い直されているということです。
ライフスタイルを重視する全米No.1の人気の街・ポートランド
いま全米の住みたい街ナンバーワンはポートランドです。保護された大自然が周囲にある一方で洗練された都市文化も享受できる、非常に快適で暮らしやすい街ですが、ここに全米、さらに世界中から人が流入していることは物欲レス現象の一端を示していると思います。
市内にはサードウェイブ・コーヒーの店やビールの蒸留所がひしめき、近郊に多くのワイナリーがあってビオワイン・ブームでも主導的役割を果たすなど、オーガニックやエコロジーでは先を行く街です。また、最近のメイカームーブメントのメッカの1つでもあります。自分たちが本当に欲しいもの、身の丈に合ったものに囲まれて暮らしたい。それこそが幸せだというライフスタイルが浸透しているんですね。
経済規模はそう大きくありません。人口は60万人で、大企業もナイキの本社がある程度。でも全米を始め世界中から人が移住してくる。ということは、彼らは別にお金持ちになりたいわけじゃないんです。お金持ちになりたいならニューヨークやロサンゼルスに行くはずですから。ポートランドに来る人はお金やモノとは違う価値を求めているわけです。
この記事に関連するニュース
-
インフレでお金の価値が下がってもどこ吹く風…お金持ちがダメージを受けない理由<br /><br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月13日 10時15分
-
フランス総選挙・極左政党の台頭が意味すること マクロン大統領との「保革共存」可能性も
東洋経済オンライン / 2024年7月11日 9時40分
-
「恋愛したい!でも失敗するのはイヤだ…」令和に“若者の恋愛離れ”が進むワケ
日刊SPA! / 2024年7月2日 15時52分
-
病気や介護にかかるお金は心配しなくていい…和田秀樹が「定年後は堂々と遊んで暮らせ」と説く理由
プレジデントオンライン / 2024年6月30日 10時15分
-
不動産投資の目的を「節税」だけにするべきではない理由【不動産投資のプロが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年6月24日 7時45分
ランキング
-
1仏女優バルドーさん、反捕鯨団体創設者の拘束で日本を批判 「彼を助けねばならない」
産経ニュース / 2024年7月23日 12時33分
-
2「トランプ氏は朝米関係に未練」と北朝鮮が論評 「親交誇示も肯定的変化なし」と主張
産経ニュース / 2024年7月23日 18時50分
-
3韓国IT「カカオ」創業者を逮捕 株価不正つり上げ疑い
共同通信 / 2024年7月23日 10時15分
-
4「過去数十年で最も重大な失敗」…米シークレットサービス長官、トランプ氏銃撃事件の責任認める
読売新聞 / 2024年7月23日 10時22分
-
5米大統領選で民主党ハリス氏の指名獲得ほぼ確実な情勢…重鎮ペロシ氏らも有力者も相次ぎ支持表明
読売新聞 / 2024年7月23日 11時50分
複数ページをまたぐ記事です
記事の最終ページでミッション達成してください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)