資本主義の成熟がもたらす「物欲なき世界」
ニューズウィーク日本版 / 2016年7月21日 17時50分
【参考記事】ウェルビーイングでワークスタイルの質を高める
それはすなわち、これまで大量生産、大量消費を続けてきた人々がモノよりもライフスタイルを上位に置き始めたということでしょう。ウォールストリートで大金を稼ぐとか、ロサンゼルスでエンタテインメントビジネスで名声を得ようといったこととは違うことを上位に置き出したということです。
資本主義の閾値を超えつつあるニューヨーク
行き過ぎた資本主義の反転ともいえるこの動きはニューヨークでも見られます。ニューヨークは、金融だけでなくメディアやアートも含めたあらゆる分野で、とんでもない額のお金が動いている。例えば広告業界で活躍するカメラマンのトップ20人くらいだと、撮影料が1億円を超えることもざらです。彼らは年収10~20億円を稼ぐけれども、ニューヨークのカメラマンの平均年収は370万円くらいなので、極端な二極化が進んでいる。
二極化はニューヨークの産業全体に起きていることで、金融でも広告業界でも全ての領域でトップに異常なまでに仕事が集中してギャラがすごく上がって、あとは逆に下がっている。でもこのまま続くわけがない、どこかで激しくはじけるはずだとみんなが思っている。リーマンショックで一度はじけたけれども、まだニューヨークは危険水域にあると思いますね。
業界内の競争も人材流動も激しいです。一生懸命働いていても、ある日突然自分より年下の人間がボスとしてやってきてクビを言い渡されるといった過酷な現実がある。そういう環境では、お金以外の価値観を持っていないと生きていけません。そういうことも人々の脱物質化を促す要素になっていると感じます。
実際、ニューヨークの金融業界で稼いでいたけれども会社を辞めて、貧困家庭の食事のケアをするNPOを立ち上げた人もいます。資本主義の閾値を超えている場所だからこそ、お金以外のところに目を向けざるを得ず、結果として自分の新たな生きがいを見出すきっかけにつながるのでしょう。
人や集団は多様で、評価軸はさまざま。経済の尺度が絶対視される時代は終わる
経済的な豊かさの象徴としてのモノの価値が下がっていく、それが物欲なき世界で起きることです。ということはつまり、目に見えるものや金銭的な尺度がこれまでほど絶対でなくなることを意味します。
今まではいろんなことをお金に換算して評価していました。その人がどれくらい仕事ができるかということは年収で評価され、その人の幸福度も持っている家やクルマ、服といった資産で評価される。数字に換算できるので分かりやすかったけれども、そういう意味ではこれからは複数の視点で幸せ感を定義していくことになるでしょう。
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