【原爆投下】トルーマンの孫が語る謝罪と責任の意味(後編)
ニューズウィーク日本版 / 2016年8月6日 6時7分
まだ大学生だった私は、「私は祖父本人でもなければ、戦争を体験してもいないのに」と何度言いたくなったか分からない。「そっちだって原爆を落としたのに、その罪を認めようとしないじゃないか」という言葉が喉元まで出かかったこともあった。
過去ではなく、未来に対する責任
一方で元捕虜たちの体験を聞くと、なぜ彼らが原爆を正当化するのか、その理由が見えてきた。日本軍が捕らえた連合軍捕虜はいわゆる「地獄船」で日本に送られ、国内各地の収容所で強制労働に就かされた。そのうち約3500人が飢えや病、事故や虐待、連合軍による爆撃などで終戦を迎える前に死亡している。
日本国内で捕らえられていた元捕虜たちは、口をそろえてこう語る。「アメリカ軍が日本に上陸したら、自分たちは日本軍に皆殺しにされると聞かされていた。原爆が私の命を救ってくれた」。原爆使用の是非はさておき、「原爆のおかげで生き延びられた」という認識は、彼らにとっては1つの真実だ。
これまでに数十人の元捕虜やその家族に接するなかで、私が謝罪を求められたことは一度もない。今では、祖父の収容所にいた元アメリカ人捕虜(94)とその娘たちが家族ぐるみの付き合いをしてくれている。
ダニエルは何度も「empathy /エンパシー(共感)」という言葉を使っていたが、私が元捕虜から常に受ける印象は「聞いてほしい、そして伝えてほしい」ということだ。ダニエルはインタビューの中で、被爆者の中には本当は今も怒りを抱いている人もいるのだろうと遠慮気味に口にした。アメリカで原爆正当化論は根強いが、少なくとも彼は被爆者の心情を理解しようとしている。翻って日本人は、アメリカがなぜ原爆投下を正当化するのかを十分に考えてきたと言えるだろうか。
過去ではなく未来に対する責任。ダニエルは今、広島で被爆した日本の友人をモデルにした絵本を制作している。サダコの本からインスピレーションを得た英語の本だ。挿絵を描いたのは、サダコの本に出合わせてくれた長男。これが彼が「エンパシー」の先に見いだした1つの答えなのだろう。
[2016.5.31号掲載]
小暮聡子(ニューヨーク支局)
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