【南スーダン】自衛隊はPKOの任務激化に対応を――伊勢崎賢治・東京外国語大学教授に聞く
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月8日 16時3分
そういう事態のことを考えて法整備をするのが、法治国家がその軍事組織を国外に出すという究極の外交政策を実行する上の最低限の所作であると思います。ご存じのように、日本には、国家の責任である軍事的過失を、刑事事件のように人権の観点からでなく、軍紀の観点から裁く法体系がありません。自衛隊の過失は、国家でなく個々の自衛隊員の過失になってしまいます。国連PKOには軍事法廷がありません。同時に、国連地位協定により、南スーダンのような受け入れ国側に裁判権はありません。
ということは、PKOの現場で起こる軍事的過失は、各派兵国の軍法・軍事法廷で裁くしかありませんが、日本にはこれが無いのです。これは現地社会の側から見たらどういうことなのか――。日本人は日米地位協定における被害者の立場から感情移入することができると思います。つまり、米兵の公務内での殺傷事件が起きた時、日本側に裁判権が無いのに加えて、米側から、もし「ごめんね。これを裁く軍法も無いの」って言われたらどうでしょうか。
【参考記事】住民に催涙弾、敵前逃亡、レイプ傍観──国連の失態相次ぐ南スーダン
――南スーダンでは、政府開発援助(ODA)との組み合わせによる平和構築を目指しています。
伊勢崎氏 今の駐南スーダン日本大使はそういうことに熱心で有能な人物ですから。彼は昔から平和構築や民軍連携といったことにこだわってきました。
――南スーダン政府が国連南スーダン派遣団(UNMISS)に反感を持っています。
伊勢崎氏 かつての国連PKOは中立な立場にこだわっていましたから、現地社会から歓迎されることはあれ、敵意を向けられることはあまりありませんでした。事故が起こっても補償で済んでいました。今は完全に違います。国連PKOは、紛争の当事者になるのです。現在南スーダンでは、大統領は国連PKOを国家として受け入れましたが、だんだん反感を強めています。大統領派の国民、そして「チンピラ」たちは当然首都に大勢いますから。
先月には、外国人ジャーナリストが多く宿泊するホテルが大統領派の国軍兵士によって襲われ、特に米国人女性が暴行され大問題になりました。親米と言われていたキール大統領ですが、今回の事件はその勢力が国連を含む国際社会に敵意を募らせている恣意(しい)的な顕示だと臆測が飛んでいます。
もし自衛隊を含む国連PKOが彼らと「交戦」になり、「民兵」を大勢射殺して、それを相手が「民間人」だと言い張ったら。これは補償問題では済みません。大統領は、国連PKOが国際人道法違反を犯したとして大々的に政治利用するでしょう。まして、それをやった自衛隊に軍法が無いとなったら、どういう政治利用に発展するか。
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