法のスキルを活用し、イノベーションを創出しやすい環境を作る
ニューズウィーク日本版 / 2016年9月22日 7時35分
そういう意味でも僕たち1人ひとりの法律に対するマインドを変えて、ルールは与えられるものでなく自分たちで作っていくんだという考え方が、ビジネスでも文化でも、もっといえば政治にも応用可能ではないでしょうか。リーガルデザインの視点は今の日本の閉塞感を打ち破って、イノベーションを促進する要素になりうると思います。
既存のリソースに付随する権利を解きほぐしてみる
個人のマインドの変革という意味では、既存のリソースとそれに付随する権利を一度解きほぐしてみる、そうすることで新たに得られる価値があるということも指摘しておきたいですね。
例えば建築・不動産の分野を例にとれば、日本ではまだまだ土地の値段も高いし、所有者のマインドとして土地や建物から所有権を切り離して考えることは難しい。しかし、それが固定資産税の上昇を招いて、しかし一方で入居者は増えず、かといって家賃は簡単に下げられないという袋小路に陥ってしまうわけです。空き家・空き地問題にはそういう背景があります。
状況を打破するには、不動産の価値をリセットするのも一手だと思うんです。例えば東京・東池袋のマンション「メゾン青樹」では、原状回復時期を従来の明渡時から次の入居者が入居する時期に変更し、入居者が壁紙を選べるオプションを追加したところ入居希望者が殺到するようになりました。いわば参加型不動産賃貸ともいうもので、オーナや不動産業者だけでなく、住み手や建築家も一緒になって不動産価値を高める工夫を凝らした、その成果が表れたケースなんですね。
また、建築士がリノベーションする際にイニシャルの設計料を低めにして、改修後の建築物から生じる上がりから残りの設計料を回収していくモデルも増えています。こういうモデルだと建築家も作って終わりではなく、成功報酬のために奮闘するし、ずっとその建物にコミットメントを続けていこうとする意識も生まれます。不動産業者の側からすれば入居者も入るし、家賃収入も増える。さらに視野を広げて、人を呼べるような面白い建築ができれば街の活性化にも寄与するでしょうし、街全体の価値向上にもつながるかもしれない。そういうふうに、設計契約1つとっても建てたら終わりというようなモデルだけでなく、イニシャルの支払いは一部だけれども建物の活用のされ方から設計料を徐々に回収するモデルも出てきているわけです。
建築・不動産分野はおそらく最もレガシーな業界の1つだと思いますが、空き家や空き地の増加を受けて、そういう分野でさえもリソースのオープンな利活用が実現し始めている。これは興味深い、また歓迎すべき傾向だと思っています。Airbnbなどの民泊の動きも、このような観点からみると、世間で言われているものとはまた違った実像としてとらえることができるのではないでしょうか。
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