世界の困難と闘う人々の晩餐─ギリシャの「国境なき医師団」にて
ニューズウィーク日本版 / 2016年10月14日 17時30分
そんな調子で、MSFギリシャのメンバーは長いテーブルを囲んで実によく議論し、質問しあっていた。谷口さんいわく、それはイタリアとギリシャでよく見る光景なのだそうだった。ギリシャ・ローマ文明と言えば大げさだけれど、薄暗さも気にせずアルコールを飲みながらひたすら語り合っている大人の姿を見ていると、文化の筋力が違う気がした。
「MSFの総会でも、エリアスはよく手を上げるんです」
エネルギッシュな男、エリアス
谷口さんは面白がってそう教えてくれた。その向こうでエリアス自身は当然別な議論に参加していた。彼は若い頃に医学を数年学びかけ(手術の見学中に貧血で倒れ、自分には無理と医学部を中退した、と言っていた)、ロンドン大学で公衆衛生の修士課程を取り、保健政策と医療のバランスをより大きな見地からとらえるのに長けていた。いずれはMSFの活動から大学で教える側に行くはずの人物だった。
そのエリアスはいまや英国の資本主義の方がきつい、と話していた。アメリカがまだしもだと思えるほどだ、と。その後ろでカーティス・メイフィールドのソウルフルな演奏がかかっていた。店の選曲は七十年代米国R&Bの渋いところを攻めてくれていた。
会長から話を聞く
じき、ウゾを頼んだ俺を誉めてくれたヒゲ面の、ちょっとヒュー・ジャックマンみたいな風貌の男性が話しかけてきてくれた。彼こそがMSFギリシャの会長、クリストス・クリストウ氏だった。にこやかでありながら、時に目の奥に鋭い眼光がきらめくクリストス氏は、そのあと面白い話を色々教えてくれた。
MSFギリシャ理事会会長クリストス氏
まず、MSFと国際環境NGOグリーンピースが組み、エーゲ海や地中海に3隻の船を出しているとのことだった。その協力には多くの議論があったが、しかし海上にひっきりなしに現れる移民ボートを救助し、海岸で待ち受ける医師によって適切な病院に運ぶには、両者の力の連係が必要だった(その活動に関する映像はこちら)。
また、彼らMSFギリシャの活動は、そもそも市民レベルで培われてきた難民・移民サポートなしにはあり得ないのだ、と自身もウゾを飲み干しながらクリストス氏は言った。
「元々災害があれば駆けつけたし、資金も送る組織がずっとギリシャにはあったんです。誰かが困っていたらそこにおもむくというのは、人間性そのものの発露に過ぎません。珍しいことじゃない。そうやってギリシャの市民はボランティアを続けてきたんです」
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