「ドナルド・トランプの世界」を読み解く
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月17日 15時50分
選挙前、トランプが負けた場合には銃を手に取り、暴徒化することを示唆した一部の支持者がいた。「リベラルで理性的」なはずのヒラリー・クリントン支持者がまさにそれと同じようなことをしているのは皮肉であり、非民主的でさえある。
しかしオバマも、そして歴史的な大統領選に敗れたクリントン前国務長官も言うように、アメリカはこの結果を受け入れ、現実を直視するしかない。選挙中に差別発言を繰り返し、数々の暴言や妄言を吐き続けた男に違いはないが、民主的に選ばれたことに変わりはない。クリントンも語ったように、「先入観なく、彼にこの国をリードするチャンスを与えなければならない」。
勝利を逃したヒラリーの誤算
「圧勝する」という大方のメディアの予想に反し、女性初の大統領になるというクリントンの勝算はどこで狂ったのか。候補としては申し分なかった。大統領夫人、上院議員、そして国務長官を務めた経験から、ワシントンの権力構造を誰よりも熟知しており、政治家としても行政機関の長としても、その能力は折り紙付きだった。
「冷たい」「信用できない」と一般に評されるが、実際のクリントンはもっと温かみのある人物だ。10月にクリントンの国務長官時代のメールがリークされたが、その中には彼女の人柄を感じさせるものもあった。
10年、ハイチに甚大な被害をもたらした地震の際には「今すぐにどんな支援ができる? これは私たちが最優先するべきことよ」と側近に指示。また、イエメンで暴力的な30代の男との結婚を家族に無理やり強いられた10歳の少女については、こんなメールを送っている。
「あの子のために何ができる? カウンセリングや教育を受けるためにアメリカに連れてくる方法はない?」。公の場ではなく、側近に宛てたメールに嘘偽りはないだろう。
能力、資質、人間性を兼ね備えていたにもかかわらず、その正反対の人物であるトランプに敗れたのは、長年付きまとったイメージに加え、戦術上のミスもあったかもしれない。選挙を通して、クリントンが唯一しなかったことは、既存の政治に「見捨てられてきた」と感じる有権者に寄り添わなかったことだ。
クリントンは従来の政治に取り残された国民に歩み寄ることをせず、代わりに彼ら・彼女らが熱狂的に支持する男への批判に明け暮れた。確かに、トランプ支持者の中には差別的で排外主義的な人もいた。それでも、トランプよりも自分こそがあなた方の不満に応え、生活を改善できる、というメッセージを打ち出すことはできたはずだ。
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