トルコという難民の「ダム」は決壊するのか
ニューズウィーク日本版 / 2016年11月30日 17時30分
【参考記事】EU-トルコ協定の意義と課題
ここまでが現在の危機に至る経緯の簡単なまとめである。
2. 難民の「ダム」としてのトルコ
問題の在り処を整理する。
まずシェンゲン協定について確認する。シェンゲン協定とは、協定の加盟国間での国境検査を不要にする仕組みであり、それは一つの加盟国の国境さえ通過できてしまえばその他の加盟国には国境検査なしに移動することができるということを含意する。
現在の加盟国数は26であり、そのほとんどがEU加盟国である。しかし、ノルウェーやスイスなどEUには加盟していない国も少数含まれる。また、その反対に、イギリスのようにEUには加盟しているがシェンゲンには入っていない国もいくつか存在する。
(水色と青色の国がシェンゲン協定加盟国 / European Commission - Migration and Home Affairs)
上記の図を見ると明らかな通り、このシェンゲン圏の東端を成すのがギリシャであり、そのギリシャと国境を接し、かつその先にシリアやイラク、イランと国境を接しているのがトルコ、ということになる。
したがって、ある難民がトルコからギリシャに入国するということは、彼がシェンゲン圏の中に入るということ、それによってシェンゲン圏内を自由に移動できるようになるということを意味する。
ドイツが主導してEU-トルコ間合意を推し進めたのはまさにこのシェンゲン協定の仕組みを前提としてのことであり、それは言葉そのものの意味で、トルコに難民流入の防波堤としての役割を期待するということであった。
(UNHCRによる地中海周辺での日別の難民・移民の流入数推計 / UNHCR -Refugees/Migrants Emergency Response - Mediterranean)
実際のところ、この合意が成立する以前からトルコは世界最大の難民受入国であった。
トルコが受け入れる難民の数は膨大で、2015年末時点で254万人にのぼる。トルコの人口が7900万人弱であるから、人口の3%を超える数の難民を受け入れているということになり、その規模はドイツなど積極的に難民を受け入れていると言われている国と比較しても桁違いと言ってよいレベルのものだ。
(難民の受入数国別ランキング / UNHCR - Global Trends : Forced Displacesment in 2015)
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