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トルコという難民の「ダム」は決壊するのか

ニューズウィーク日本版 / 2016年11月30日 17時30分

 理由の一つは地理的なものである。すなわち、トルコはその他の国々よりも難民発生国からの距離が圧倒的に近い。

(難民の発生数国別ランキング / UNHCR - Global Trends : Forced Displacesment in 2015)

 近年における世界最大の難民発生国はシリアであり、トルコはその南部にシリアとの長い国境を有している。逆の視点で見れば、シリアが国境を接している国はトルコ、レバノン、ヨルダン、イラク、イスラエルの5カ国しかなく、シリアから陸路で国境を越えようとする場合の選択肢は非常に限られている。

 難民受入国のランキング上位の多くはこうした難民発生国の近隣国が占めており、トルコを始めとするこうした国々はそれらより地理的に遠くに存在する国との関係ではある種の緩衝地帯、言い換えれば巨大な「ダム」のような役割を果たしている。

 2015年に起きたことは、このダムからの放流の量が増加し、下流であるヨーロッパに流れ込む難民の量が増加したと理解することができる。逆に言えば、2016年3月のEU-トルコ間合意においてEU側が企図したことは、このダムの放流の量を改めて抑制しようということであった。

(UNHCR - Refugees/Migrants Emergency Response - Mediterranean)

 今回のエルドアンの「脅し」は、まさにこのEU側の意図に逆らう形で、そちらが合意内容を履行しないのであればこちらもそうしますよ、すなわちこれまで抑制していた放流の量を増やしますよ、ということを言っているわけである。

(UNHCR - Refugees/Migrants Emergency Response - Mediterranean)

 2016年3月以降の合意以降、一気に難民流入の数が減少しているという現実を背景にした、非常に強い脅しであると言えるだろう。



3. 世界はトルコに何を求めるのか

 問題を改めて振り返ってみる。EU-トルコ間合意という名の取引における最も重要な矛盾はどこにあるか。

 それは、人権規範の守護者たるEUが、人権侵害を主な理由としてEU加盟を認めていないトルコに対して難民を送り返し、しかもそのことと引き換えにトルコのEU加盟交渉を加速させるという約束をしたという点にある。

 どういうことか。

 EU諸国における難民受入の困難は、難民を受け入れたからには自らが奉じる人権規範を彼らにも適用し、人間らしい暮らしができるように最大限の努力をしなければならない、というところにある。

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