続く粛清、北朝鮮の駐英国公使亡命と張成沢殺害の「接点」
ニューズウィーク日本版 / 2017年2月3日 17時11分
【参考記事】北朝鮮外交官は月給8万円、「誰も声をかけてこない」悲哀
消された2女優と張との関連
私が注目したのは「段階的に粛清は続いている。金正恩は3年間で処理しろと命じた」とのくだりである。テ氏ら幹部エリートたちは「先行恐怖統治」への恐れとともに嫌気が差し、メディアには知られていないが、ひそかに亡命が続いているとも語っていた。
そうした粛清の実態を裏付ける動かぬ証拠を入手した。平壌で08年に出た「光明百科事典」第6巻(文学芸術編)である。年代ごとに主要な映画の解説をしているところで、不自然な手が加えられていた。「遠い後の日の私の姿」(97年)「幹は根から育つ」(98年)、そして「ある女学生の日記」(06年)に添えられた映画のシーンの写真に白い紙がのり付けされていたのだ。裏から光を当てればうっすら浮かび上がるが、修正前のオリジナル本を入手し、調べてみると、2人の女優が消されていた。いつ紙が貼られたかはっきりしないが、関係者の話ではここ1年ほどのこととみられる。
消されていたのは「遠い後の日の私の姿」と「幹は根から育つ」の2作品に主演していた「功勲俳優」の称号を持つキム・ヘギョンさん、そして「ある女学生の日記」に主演していたパク・ミヒャンさん。いずれも大ヒットし、女優も絶大な人気があった。「幹は根から育つ」は金正日が「100点満点の映画だ」と絶賛したことで知られ、「ある女学生の日記」は北朝鮮映画初のカンヌ国際映画祭出品作であり、日本でも公開された。
また「ある女学生の日記」については最新版の「朝鮮切手カタログ」(朝鮮郵票社)にも不可解な痕跡があった。金正日の「映画芸術論」発表35周年を記念して2008年に発行された4種類の切手を並べた小型シートで、パク・ミヒャンさんが登場するワンシーンをデザインした1枚だけが白く消されている。百科事典も切手カタログも映画の存在自体は抹消されておらず、女優の写真のみが消されていることから、2人の女優に何らかの問題があったことになる。
平壌の事情に通じた在日ビジネスマンがこう語る。「2人の女優が消えたのは明らかに張成沢粛清の余波です。粛清の真の理由までは知りませんが、まずキム・ヘギョンがやり玉に挙がり、しばらくしてパク・ミヒャンも消えた。たまに朝鮮中央テレビで彼女らの映画が放映されていましたが、ぱたっとやらなくなった。叔父を残酷に殺したのですから、幹部らはおびえながらも、金正恩流のやり方に反発がある。一心団結を訴え、自身を敬愛する最高領導者と呼ばせていますが、反逆を恐れているのです。だから徹底して粛清を続けるしかない。平壌では張成沢の名前を口にすることさえはばかられる重い空気のままです」
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