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鍋をかぶった小さなデモ隊──マニラのスラムにて

ニューズウィーク日本版 / 2017年4月27日 17時45分

やがてリナが拡声器を持って、彼女たちの前に立った。そしておそらく上記のメッセージをタガログ語で呼びかけた。すると女性たちは最初は恥ずかしげに、しかし次第に熱を帯びた調子で鍋をしゃもじで叩き、フタ同士をぶつけてノイズを出し、同時にリナに唱和して「ファミリープラニングをしましょう!」という意味だろうスローガンを叫び続けた。

誰に向かってというのでもない。だから反対に、おそらくは国会に出かけてとか省庁前でいうこともあるのだろう。まるで予行演習だとも思いながら、しかしその誰に向かってとも言えないデモンストレーションが、人口の密集したバランガイの中の男たちに向けられているのもよくわかったし、自らの意識を高めているのも実感出来た。

デモへの距離が近い、というのだろうか。彼らフィリピン人はかつて民衆の力でマルコス政権を倒した過去を持っており、それがひとつの習慣のようである事実を俺は見たわけだった。それが現在強権をふるっているドゥテルテ政権下でも行われているのは、見習うべき勇気ある行動だった(このフィリピン人の勇気に関しては、翌日市内で大きなデモと集会があるから、そのリポートの中で書こう)。

ともかく、『ノイズ・バラージュ』を続行している女性たちは明るかった。感動して思わずスマホの動画で様子を撮り歩く俺に対して、彼女たらは手を振って笑いかけたり、照れて笑ったり、とにかく笑い声が絶えなかった。動画の中で、俺も思わず笑っている。

また驚いたのは、いつも無口でにこやかなジュニーが大声で唱和し、時には女性たちをリードしていることだった。足でコンクリートを踏み、リズムを取っていたりする。彼もまた明るい活動家であり、人は声を上げて主張すべきだと確信しているのだった。

そういう小さな、しかし足腰のしっかりした社会運動がそこにはあった。スラムはちっともよくならないとも聞いたが、それでも言いたいことは言う。それがマニラっ子たちの心意気というものなのだろうと俺は感じ入った。

Tシャツをマントにする子(前回話を聞いたイメリン・L・セルナさんの長男)
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別のクリニックへ

再びクリニックへ行って、メアリー・ルース・ロクサスさんという若いMSFの女性医師にあれこれうかがったが、他と重複するので翌日に移る。

俺たちは早朝からロセルと一緒にダイニングルームでパンをかじった。空き部屋がひとつあるのでそこに泊まることにしたのだった。そうすれば市外の少し遠くに住んでいるロセルにも出勤がつらくないからだ。マニラの渋滞は他のアジア都市に比べても凄まじいのだ。

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