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ミッションを遂行する者たち──マニラの「国境なき医師団」

ニューズウィーク日本版 / 2017年5月29日 18時30分

スーダンは北ダルフールで9か月プロジェクト・コーディネーターをし、翌年からジンバブエでHIV/エイズ結核プロジェクトに参加、2013年にはインドでやはり同様のミッションを行いながらC型肝炎や性暴力被害から人々を救う活動を行い、おそらくその経歴から2015年パキスタンでのリプロダクティブ・ヘルス、子供の栄養失調に関する活動に転ずる。



一貫して、ジェームスは弱い立場の人々に関わっているのだった。それはMSFだから当然ではあるものの、自国を出たジェームスはほとんどミッションに人生を捧げ続けている。

実は三人の子供の父親で、一番上は20歳。その下も学校は卒業し、一番下の子もじきそうなるのだという。どんな子供たちなのか、俺は猛烈に興味がある。ユーモアがあって優秀で冷静で、しかも実は内面にたぎる何かを持っている子供。俺はジェームスの生き写しみたいな若者を想像する以外ない。

マニラでのリカーンとの活動について聞いて見ると、ジェームスはやっぱり小さな声でこう答えた。

「パートナーシップを組んで長期プロジェクトを行うというのは、ひとつのパッケージとして他でも今後試せる形なんですよ。それを僕たちはゼロから始めてる」

これだけで十分に彼のIQの高さがわかると思う。やっていること全体を確実に把握し、すでに次のことも視野に入れているのだ。

「性暴力やリプロダクティブ・ヘルスは時間がかかるんです。こちらが何をしたいかを伝えて、人々が自国のありように疑問を持って、施設が出来て、信頼を勝ち得て、偏見を減らしながら政府とも連携して......ね?」

ジェームスはくりくりの黒目を俺たちに向け、にこっとする。不機嫌かと思っているとそういう表情をするので、いわばツンデレのようなものだ。

「来年からは性暴力被害者への活動も始めます。つまりファミリープランニング、妊産婦ケア、性感染症対策、子宮頸癌の治療と予防、性暴力被害者支援という柱でやっていくことになる。ともかく必要な医療が受けられる状態にしなければいけません。そしてたくさんの人が来てくれることが重要です。信頼されるということですから」

そう具体例を挙げた上で、さらにジェームスは興味深いことを言った。

「それだけじゃありません。来年は人類学者も心理学者も、回診車も来ます。フィリピンの文化がどう作用しているか、我々は知るべきです。そして同時に外に出ていって診療の機会を出来るだけ増やすんです」

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