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東日本大震災の瓦礫に乗って、外来種がやって来た

ニューズウィーク日本版 / 2017年11月22日 16時0分

<東日本大震災の津波の漂着物と共に、米西海岸に到着した生物が生態系を脅かす恐れも>

2011年3月11日、日本の東北地方の太平洋沿岸で、ムラサキイガイ(ムール貝)はいつもと変わらない朝を迎えた。

午後2時46分、大地が6分間にわたり激しく揺れた。続いて巨大な津波が発生。3階建ての建物をのみ込み、波止場にしがみついていた無数のムラサキイガイを引き剝がした。

東日本大震災の津波が残した膨大な瓦礫は、片付けるだけで4年近くかかった。ただし、全てが日本にとどまっていたわけではない。この6年間で大量の瓦礫がハワイや北米大陸西岸に流れ着いている。その漂流の物語から、自然災害が世界を変えている現実が垣間見える。

9月29日付でサイエンス誌に掲載された論文によると、日本から米西岸に漂着したとみられる瓦礫の一部を調べたところ、日本の海洋生物が300種近く付着していた。

米ウィリアムズ大学の海洋生物学者で論文筆頭著者のジェームズ・カールトンは、今なお新たな瓦礫が流れ着いていると語る。「これほど続くとは思ってもみなかった」

生物が丸太などをヒッチハイクして海を渡ることは以前から確認されていたが、「これだけ大規模な移住を、発生から追跡することができたのは初めてだ」と、北カトリック大学(チリ)で種の移動について研究している生態学者マーティン・ティールは言う。

カールトンたちは、東日本大震災の津波によって流出し、米西岸まで運ばれたと思われる634個の漂着物(その大半はプラスチック)を調査。世界中の80人の科学者の協力を得て調べたところ、ワレカラやキヒトデ、イシダイなど289種が生きた状態で確認された。

全てが日本から運ばれてきたわけではない。長旅の途中で生まれた子孫もいるだろう。それも含めて、瓦礫と共にたどり着いた土地で、新たな生態系で生きる機会を与えられる。



増え続けるプラスチック

ただし、「瓦礫ヒッチハイカー」の大半は、生存に適した環境に漂着するとは限らない。幸運なものは外来種となって繁栄し、在来種を脅かすときもあるが、天敵のいない移住場所を選ぶことはできない。在来種との関係は「生態系のルーレット」だと、カールトンは言う。

ムラサキイガイは、過去にもさまざまな沿岸を侵略してきた。ハワイと北米沿岸の生態系を監視して、外来種の侵略の兆候をいち早く確認しようという研究も行われている。

震災から6年がたっても、北米沿岸に漂着する瓦礫は量も種類も驚くほど多い。木などの自然物は漂流中に崩壊や腐敗することも多く、最初の2、3年で減った。しかし「大量に流れ着くプラスチックは、はるか遠くから生物を運んでくる」と、ティールは言う。

津波の瓦礫は、海を漂うゴミのごく一部にすぎない。今回の論文に書かれているような長い旅は、私たちが思っている以上にさまざまな所で繰り広げられているのだろう。

今年9月にフロリダ州とカリブ諸島を襲った2つのハリケーンも、大量の瓦礫を海に放った。多くの「ヒッチハイカー」がメキシコ湾流に乗って、ヨーロッパの沿岸に流れ着くだろう。ゴミに占めるプラスチックの割合は今後も増え続け、より長い距離、長い時間、漂流するだろう。

運命のいたずらで大海原の冒険に出た生物が、漂着先で歓迎されるかどうかは着いてみるまで分からないが。


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[2017.11.21号掲載]
メーガン・バーテルズ

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