ロシアW杯をプロパガンダに利用するプーチン
ニューズウィーク日本版 / 2018年6月19日 16時0分
帰還テロリストの脅威
なるほどロシア選手が次々と表彰台に立った。開会式と閉会式の評判も上々で、事前にはいろいろうるさかった国際メディアも一定の評価を下した。
ロシア連邦保安局(FSB)は、イスラム系武装勢力によるテロを回避できたことは欧米諸国との協力のたまものだと表明。閉会後に国家ぐるみのドーピングが発覚したが、少なくともロシア国民は気にしていない。
プーチンの4期目の大統領就任式を前に反政府活動家を拘束する警官 Tatyana Makeyeva-REUTERS
世界最高の選手たちと推定60万の外国人観光客が訪れるW杯でも、プーチンは同様の成功を目指す。ただし規模が大きい催しだけに、過激派によるテロ攻撃から反体制派の抗議行動まで、政府はさまざまなトラブルの可能性に備えている。
「聖戦士」が自動小銃を構え、爆弾が炸裂し、競技場が白い煙に包まれ、ついに狙撃銃の照準がロシア大統領に合わせられる。そして「不信心者のプーチンよ、イスラム教徒殺害の代償を払え」という文言が躍る。去る4月にテロ組織ISIS(自称イスラム国)の支持勢力によってネット上に掲出された画像だ。
ほかにも、リオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドといったスター選手が首を斬られる陰惨な合成画像も拡散している。そこには「競技場はおまえたちの血に染まる」とある。
ISISは過去1年ほどの間に、イラクとシリアで軍事的に大敗を喫してきた。だがソーシャルメディアや暗号化されたメッセージを利用して、ロシア国内のシンパに「W杯観客を狙え」と呼び掛けている。
「まんまと(ロシアで)事件を起こしたら、ISISとその戦闘員や支持者にとって絶大なプロパガンダ効果が生じるだろう」。国際軍事情報会社IHSマークイットのジェーンズ・テロリズム・インサージェンシー・センター(JTIC)のマシュー・ヘンマン所長は最近の報告書でそう指摘した。
とりわけ危険と思われるのが、爆弾の造り方を学んでシリアやイラクから帰国したロシア人戦闘員だ。治安当局によると、チェチェン共和国などがある北カフカス地方の出身者を中心として、約4000人のロシア国籍者が中東でISISの戦闘に参加した経験を持つ。
なかでも試合開催都市で、モスクワから約400キロのニジニノブゴロドは危険だ。5月4日には警官3人がISIS戦闘員との銃撃戦で負傷している。
集合住宅の一室に立て籠もった戦闘員は治安部隊に殺害されたが、その場所からわずか十数キロの所に、アルゼンチンやイングランド、スウェーデンなどの代表が試合に臨むスタジアムがある。同市では今年2月と昨年11月にも、襲撃を計画したISIS戦闘員らが治安部隊に射殺されている。
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