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「英雄」で「善人」のマケインはなぜ大統領になり損ねたのか──それはアメリカが変わってしまったからだ

ニューズウィーク日本版 / 2018年8月29日 19時48分

<トランプ大統領に物言う政治家として、党派を超えて尊敬を集めていたジョン・マケイン。だがアメリカの政治と世論にはとうに見捨てられていた>

米共和党の重鎮ジョン・マケイン上院議員が8月25日に死去した。81歳だった。1年前に脳腫瘍と診断され、闘病中だった。祖父も父も海軍大将という軍人一家に生まれたマケインは、海軍のパイロットとして従軍したベトナム戦争で「英雄」となった後、政治家に転身し、世界におけるアメリカの指導力を不断の努力で守ってきた。

「ジョン・マケイン上院議員は、妻のシンディーと家族に看取られて亡くなった。彼は60年にわたって誠実にアメリカに尽くした」と、マケインの事務所は声明を出した。

アメリカ政治が専門の筆者としては、彼の評伝や人間的な魅力が何であれ、アメリカ政治における3つの強力なトレンドが、2度にわたって大統領を目指した彼の野望に立ちはだかったことのほうに興味を引かれる。3つのトレンドとは、アメリカにおけるキリスト教右派の台頭、党派間の対立、外国で戦争をすることに対する世論の厭戦気分だ。

超党派の人気に衰え

マケインは党派を超えた立法のチャンピオンで、米上院の議会運営に貢献した。だがアメリカで政治的な分断が広がるにつれ、彼のような超党派の政治家はかつての人気を失った。

マケインは今年5月、ドナルド・トランプ米大統領が米中央情報局(CIA)長官に指名したジーナ・ハスペルの就任に反対した。かつてテロ容疑者の拷問に関与したといわれるハスペルが、「拷問の不道徳さを認めることさえ拒否した」からだ。マケインはベトナム戦争で5年半にわたって捕虜となり、激しい拷問を受けた過去がある。そのため、米政府がいわゆる「強度の尋問」を認めることに対しては、断固反対の姿勢を貫いてきた。だが他の議員の十分な協力は得られず、指名阻止はかなわなかった。

その数日後、マケインのハスペル指名反対について「マケインはどうせ死ぬんだから関係ない」と、トランプの側近は言った。こんな暴言が吐かれること、そしてホワイトハウスが見て見ぬふりをしたことから、トランプとその周辺のマケインに対する強い憎悪が見てとれる。トランプの態度がホワイトハウスの隅々まで浸透していることも明らかだ。

大統領選に挑戦

マケインは名誉と勇気のなかで政治家としてのキャリアを閉じた。ただしホワイトハウスから疎まれ、共和党が多数派を占める上院ではほとんど影響力もなく、彼が長年貫いてきた高潔な政治姿勢にも昔ほど関心を示さない国民のなかで、だ。

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