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モーリー・ロバートソン解説:日本人が中東を理解できない3つの理由

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月5日 17時30分



エンドレスな紛争もフェイクニュースの温床 Omar Sanadiki-REUTERS

中東情勢が分かりづらい理由は日本自身にも問題がある?

3つ目の原因がそれです。これだけ情報ソースがゆがんでいるわけですから、本来は丁寧にニュースを吟味し検証する必要があります。ところが、中東情勢について日本国内でコメントする人たちが、自身のイデオロギーに沿った報道を良いとこ取りして大声で叫んでしまうようなことも見受けられる。

例えば、何が何でもアメリカが悪くてアサドが正しいと思い込む「反米派」がいたりします。あるいは人道主義的な見地から「とにかく市民を殺害するのをやめてほしい」との思いでいろいろなニュースを検索して回るうちにロシア系メディアの日本語記事をまとめて読んだ結果、プロパガンダを丸のみする人もいる。あるいは立派な肩書を持った学者が書いた記事が真実なのだ、と検証を放棄する人もいる。

日本で中東情勢を分かりづらくしているもう1つの理由は、経済報道に偏向していることです。ろくに政治的背景も解説せずに「で、石油の値段はいくらになる?」という話題に終始する。「日本はイランとの政治的な対立を避け、安定的に石油を買えばいい」と軽く考える人がいるけれど、それは多分直近でアメリカの経済制裁にぶつかります。また、イランを都合の良い「産油国」、つまりリソース(資源)と捉える報道は一般的ですが、イラン国内の人権抑圧、特に女性への圧迫は報道でほとんど議論されません。2018年の今、経済と政治と人道はセットで議論されるべきです。

中東報道の軸があまりにも日本中心過ぎます。ゆがんだフィルターを何層も通ってから情報が入ってくるので、現地にある、あの複雑だけど知れば知るほど面白いムスリムのあるがままの姿などに興味を持たせる環境がない。だから日本は中東に関心が持てなくなるのだと思います。

また、イスラム原理主義組織によるテロを恐れてか、中東情勢は「触らぬ神にたたりなし」となってしまっている側面もうかがえます。日本でのシリア難民の受け入れに関する議論についても、相手のけんかに巻き込まれて敵の勢力からにらまれることを嫌がって避けているきらいがあります。日本政府も外面を気にしてお金は出しますが、介入したくないという姿勢が出ている。国がそうだから、日本の大手メディアも積極的に報じない印象があります。結局、中東やイスラムについては日本政府も及び腰なので、メディアも「日本の問題じゃない。だけど石油はよろしく」となっているのでしょう。

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