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モーリー・ロバートソン解説:日本人が中東を理解できない3つの理由

ニューズウィーク日本版 / 2018年9月5日 17時30分

今後の中東情勢を展望する上で押さえておくべきポイントは?

女性ですね。「アラブの春」で彼女らが声を上げたのは大きな異変でした。いま特に注目しているのはサウジアラビアにおける女性の運転解禁です。単に運転できるようになったとか男女同権という問題ではなくて、解禁による経済効果が見込まれている点がポイントです。つまり、イスラム社会でも実利価値が宗教価値を上回っていくかもしれないということ。

ムスリム女性は、今も戒律でいろいろな行為が禁止されています。必ずしも具体的に何をするなと書かれていないこともありますが、宗教的解釈で御法度になっているものがたくさんあり、それが男尊女卑の温床になっています。女性の運転が解禁されると、まず女性が外に出やすくなります。そして車を買ったり、車で出掛けて買い物をしたりしてお金が動き始める。経済が回るわけです。

こうして、女性が運転すると経済が潤うという既成事実が積み重なると、女性に関する宗教的解釈も現実社会に合わせて変えていかざるを得なくなる。そうなると、戒律の解釈はうやむやになり戒律自体が方便になる。例えば、チュニジア出身のインテリの民主活動家に取材したことがあるのですが、彼は普通にお酒を飲むんですね。

精神面では宗教心があつくても、現実社会では欧米型の民主主義がいいし、女性の運転で経済もよくなるみたいに実利を取る。それはそれ、これはこれと考え方のすみ分けが生まれる。

イスラム原理主義者はそれを堕落だといって締め付けを試みるだろうけど、貧困と格差がそもそも人々を原理主義へと押しやる原動力なので、女性の社会参加が増えて貧困と格差が徐々に解消されれば、その分、原理主義者の声は届きづらくなります。実利優先で経済発展して、自分たちもステークホルダーになれて決定権を持てば、かつて最終的な心のよりどころだった宗教熱もクールダウンするでしょう。その傾向が若者の間で高まって経済効果を生めば、原理主義にすがる人が相対的に少なくなるのではないでしょうか。

ですから、女性の今後の躍進が中東社会に大きな違いを生むということです。そして、経済発展が進めば民主化要求が強まると思う。これまで貧困と信仰心をツールに独裁政権を維持してきた中東諸国は多いけれど、そうした手法は通用しなくなるでしょう。

<本誌2018年8月14&21日号「特集:奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」から転載>


[2018.8.14号掲載]
モーリー・ロバートソン


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