女性蔑視のトランプを支える「トランプの女たち」のナゾ
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月27日 17時0分
ユーゴスラビア(現スロベニア)出身のメラニアがモデル業界に入ったのは、東欧女性の人身売買が国際的に問題となり、広く報道されていた頃だった。彼女が苗字のつづりをドイツ風に変え、一時期、オーストリア生まれだと主張したのはそのせいかもしれない。だが強いスロベニアなまりの英語を話すメラニアは、人身売買の犠牲となる女性のイメージから今も逃れられない。
昨年、フィンランドの小説家・劇作家のソフィ・オクサネンは公開書簡で、女を蔑視する夫の言動を表立って批判しないメラニアを非難した。「あなたはファーストレディーだが、テレビであなたに似たアクセントを聞くたび、画面に映るのは娼婦かストリッパーかメールオーダー花嫁だ」とオクサネンは書いた。「あなたの屈辱的な結婚が記事になるたび、男たちは買春目当てで東欧に押し寄せ、東欧女性とのデートアプリに群がる。あなたの沈黙はあなた1人の問題ではない。無数の女たちの人生を左右するのだ」
トランプがメラニアに引かれた理由は一目瞭然。24歳年下の無口な美女は、衰えかけたトランプ・ブランドへのカンフル剤だ。だが少なくとも最初のうち、交際から大きな恩恵を受けていたのはメラニアだった。トランプと付き合う前のメラニアは、セレブに憧れるその他大勢の1人でしかなかった。
2人は05年1月、フロリダにある金ピカの別荘マールアラーゴで挙式。披露宴にはビルとヒラリーのクリントン夫妻も出席した。息子バロンの出産は06年3月だった。
結婚後の彼女はイバナ、イバンカと同じようにトランプ印の小売業に進出し、化粧品やジュエリーを扱うメラニア・マークス・アクセサリーズのCEOに就任。16年夏にはドゥジュール誌が「テレビショッピングの番組で紹介されたメラニアのジュエリーは45分で完売した」と書いた。
メラニアは注目を浴びるのが苦手だ。彼女を発掘した母国の写真家スタネ・イエルコによれば、若い頃からその性格は変わらない。大統領夫人として世界に注視されるメラニアが、いつもぴりぴりして見えるのも当然だ。
夫とポルノ女優の不倫騒動が泥沼化し、悲しい顔をした自分の写真がネットに出回り、メディアに一挙手一投足を分析される日々はさぞかし地獄だろう。10月、ケニアを訪問中のメラニアはABCのニュース番組で「(私は)世界で一番いじめられている人間」だと愚痴った。
「みんな心配している」と、ある友人は語る。大統領夫人になって最初の1年、メラニアは夫の所有するニューヨークやフロリダの家とホワイトハウスを転々とし、今年の5~6月には24日間も雲隠れした。メキシコとの国境に何度も(少なくとも1度はホワイトハウスに無断で)足を運び、10月には1人でアフリカ4カ国を歴訪した。
覚悟も素養もないままアメリカ大統領夫人の大役を任されたメラニアだが、皮肉なもので、今のところは彼女が誰よりも「トランプ離れ」に成功しているようだ。
(本稿は『黄金の手錠』からの抜粋)
<本誌2018年11月27日号掲載>
※11月27日号(11月20日発売)は「東京五輪を襲う中国ダークウェブ」特集。無防備な日本を狙う中国のサイバー攻撃が、ネットの奥深くで既に始まっている。彼らの「五輪ハッキング計画」の狙いから、中国政府のサイバー戦術の変化、ロシアのサイバー犯罪ビジネスまで、日本に忍び寄る危機をレポート。
ニーナ・バーリー(ジャーナリスト)
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