世界で初めてイオン風で推進する「可動部品のない航空機」の飛行実験に成功
ニューズウィーク日本版 / 2018年11月27日 17時0分
<米マサチューセッツ工科大学の研究チームは、電気空気力学をベースとしたイオン風で推進する「可動部品のない航空機」の世界初の飛行実験に成功した>
従来の航空機は、プロペラの回転やジェットエンジンの噴射から推力を得て加速前進し、前進移動と固定翼による揚力で浮上する仕組みとなっており、プロペラやタービンといった可動部品と燃料に用いる化石燃料が不可欠だ。
これに対し、高電圧を加えて空気分子をイオン化し、「イオン風」と呼ばれる気流を発生させ、この推進力と揚力で飛行する、電気空気力学をベースとした「可動部品のない航空機」が、世界で初めて飛行実験に成功した。
イオンが生み出す推進力
米マサチューセッツ工科大学(MIT)のスティーブン・バーネット准教授らの研究チームは、2018年11月21日、学術雑誌「ネイチャー」において、電気空気力学的推進系を実装した小型固定翼航空機の設計とその飛行実験に関する研究論文を発表した。
この航空機は、重さ5ポンド(約2.27キログラム)と軽量で、5メートルの翼を持つ。翼の前部には正極となる細い針金、後部には負極となる太い針金がそれぞれ配置され、胴体部には、動力源として4万ボルトの超軽量高圧電力変換装置も備えられている。
4万ボルトの高電圧を加え、正極となる前部の針金を通電させると、周囲の空気分子から負に帯電した電子を引き寄せ、残された空気分子は新たにイオン化されて、後部の負に帯電した電極に引き寄せられる。負の電極に向かってイオンの流れが新たに形成されている間、それぞれのイオンは他の空気分子と頻繁に衝突を繰り返して推力を生み出し、航空機はこれによって推進力を得る仕組みとなっている。
Ion drive: The first flight
マサチューセッツ工科大学の屋内スポーツ施設「デュポン・アスレチックセンター」の体育館でこの小型固定翼航空機の飛行実験を行ったところ、10回にわたって60メートルの距離を飛行することに成功した。
騒音がほとんど発生せず排気がない
電気空気力学を航空機の推力として応用する研究は1920年代からすすめられてきた。プロペラなどの可動部品を使わず、化石燃料も必要としないため、騒音がほとんど発生せず排気がないのが利点だが、これまで電気空気力学的推進系を実装した航空機が実際に飛行した例は確認されていなかった。
そのため、今回の研究成果は、電気空気力学の航空機への応用可能性を示すものとして注目されている。研究チームでは、今後、より低い電圧で多くの「イオン風」を生成できるよう、航空機の設計の改善に取り組むとともに、推力密度の向上にも努める方針だ。
松岡由希子
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