幻冬舎・見城徹が語った『日本国紀』、データが示す固定ファン――特集・百田尚樹現象(2)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
百田は、花田が編集長だった12年10月号の「WiLL」で初めて安倍と対談している。収録時は民主党政権で、安倍は一野党議員であり、総裁選に立候補するかどうかも明言していない頃だった。一方で百田は、前章で見たように「日本で一番売れる小説家」としての地位を確立していた。
百田は直前の同誌9月号に民主党批判の論考を掲載し、ラストを安倍再登板待望論で結んでいる。これを読んだ安倍が感激し、百田の携帯に電話をかけた。そして、対談が組まれたというのが一連の経緯だ。百田はそれまで政治をテーマにまとまった文章を書いたことはなかった。ツイッターで民主党政権を批判することはあったが、あくまでツイートの範囲だ。彼に雑誌メディアで発言の場を用意したのが、花田だった。安倍・百田対談の狙いはどこにあったのか。
「対談を提案したのは僕ですね。彼の思想傾向はツイッターで分かっていましたからね。この対談で、2人の信頼関係は増したと思いますよ」
花田が図らずも明かしたのは、百田の右派論壇デビューのきっかけがツイッターだったという事実だ。
花田は、百田を政治言論に引き入れた人物がもう1人いたことを明かした。故・三宅久之だ。元毎日新聞記者、晩年は政治コメンテーターとしてテレビで活躍していた。三宅は安倍再登板に向けて、右派メディアの人脈をフルに使って「運動」をしていた。三宅が代表発起人となり、12年9月の自民党総裁選を前に「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志による緊急声明」を発表した。その発起人の中に百田の名前があった。
百田自身は「自分が政治に影響力を持ちたいと思ったことはない」とインタビューで答えていたが、花田の手による論壇デビューを境に、ベストセラー作家は右派の輪の中に入っていく。以降、右派系メディアでの仕事や政治的な発言、歴史認識についての発信の場は急速に増えた。安倍政権誕生とともに13年にはNHK経営委員にも就任した。書評だけでなく、
12年7月に名物コーナー「おやじのせなか」で百田を取り上げていた朝日新聞も、この頃から批判のトーンを強めていく。
花田は「百田の本質は小説家であり、学者ではない」と言う。歴史認識についても、例えば新しい史料を発掘しての新解釈、というような「新しさ」はない。だが、「百田さんは何より語り口が面白いし、見事ですよ。ユーモアもあるしね」。ここでもポイントは語り口だった。
ツイッターで百田を発掘した花田だが、彼のツイッターには苦言を呈していた。「あそこで激しいことは書かないほうがいい。だって余計な波乱とか、炎上を招くでしょ。言わずにはいられないんでしょうけどね」と打ち明ける。
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