幻冬舎・見城徹が語った『日本国紀』、データが示す固定ファン――特集・百田尚樹現象(2)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
■自分たちはマイノリティー
業界で培った人脈をたどり、17年から社長になった山田にとって教科書は、たかじんの現場だった。彼が学んだのは、政治を扱う番組であっても「面白さ」が大事であるということだ。関西のテレビでは、東京以上に「本音」が求められる。「ええかっこしい」は嫌われ、どれだけ本音をぶちまけることができるのかが「面白さ」の1つの基準になる。「たかじんさんみたいにテレビの前でキレたり、けしからんって言うのも芸なんで腕が必要です。右とか左とか関係なく、おもろいことが大事なんですよ」
では同社の目玉とも言える中国や韓国、リベラルに対して批判をすることはどこが「面白い」のだろうか。
「韓国も中国もそれって普通に考えておかしくない?ってことが多いじゃないですか。たたきばかりでは、数字は伸びません。批判ばかりでおもろくないからです。『普通の人』の感覚を大事にして、分かりやすく、面白く伝える。百田さんは『普通の人』の感覚を理解しています」
山田は、地上波テレビは「普通の人」と乖離していると語る。そこに憤りを感じ、自分たちから変えたいのだという。
例えば、野菜の価格高騰というニュースがあったとしよう。スタジオで局アナやコメンテーターたちがしたり顔で「庶民の暮らしは大変です」と語る。山田にはそれが我慢できない。彼らの年収はいくらなのか。同じ仕事をしているのに、下請けの制作会社の2倍はもらっているのではないか。そんな待遇を下請けに強いてきて、庶民の味方、正義は自分たちにあると言わんばかりの態度に疑問を感じてしまうのだ。
山田は「僕は元左翼少年」だったと語る。だからこそ、余計にリベラルメディアの欺瞞を感じ取ってしまうのだろう。関西流の「本音主義」は、インターネットにそのメソッドが流れ込み、DHCという強力なスポンサーも得た。本音が向かう「権威」の1つは「ええかっこしい」なマスメディアである。花田も朝日新聞を大いなる権威であると考えていた。彼らのメンタリティーに共通しているのは、自分たちはマイノリティーであり、権威に立ち向かっていくという意識である。
第3章:21世紀の叙事詩?
4月半ば、私は今回のレポートで、どうしても取材が必須と考えていた人物に向けて、手紙を書いていた。ベストセラー作家に駆け上がっていった百田は右派論壇デビューを飾ってからというもの、作品にも多くの批判が向けられ始めた。特に集中砲火を浴びたのが『殉愛』、そして『日本国紀』である。両者の共通項は、『殉愛』ならノンフィクション作家、『日本国紀』なら歴史学者といった、その世界のプロも加わり批判的に検証されていること。そして、版元も同じだ。それが、社長・見城徹率いる幻冬舎である。
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