幻冬舎・見城徹が語った『日本国紀』、データが示す固定ファン――特集・百田尚樹現象(2)
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月27日 17時0分
見城の取材が難しいことは分かっていた。2作の騒動について、社長自らがインタビューという形で語ったものを見つけることはできなかったからだ。便箋に書いた直筆の取材依頼を速達で送り、私は大阪に向かった。
大阪──。そこは百田尚樹のホームグラウンドであり、『殉愛』騒動の現場でもある。昨年11月に大きな動きがあった。『殉愛』でいわば悪役として登場するたかじんの元マネジャーの男性が、幻冬舎と百田を名誉毀損で訴え、勝訴したのだ。
判決は、元マネジャーが訴えた19カ所のうち、14カ所で名誉毀損などを認めた。それらは「さくら、さくらと利益を共通にするプロデューサーや立場の近い友人」の発言を中心に記載したものであり、本人やたかじんの会社に関わっていた弁護士への取材は一切なかったことが認定されている。取材がないままに元マネジャーは「能力を欠き、金に汚く、恩義のある人物に対してふさわしくない行動」を取る人物として描かれてしまったことがとりわけ問題視された。
私は、大阪で元マネジャー側の弁護士や関係者を取材し、判決文や百田側が法廷に反論の証拠として提出した当時の取材ノートなどを確認した。率直に言って、これらの提出物を根拠に百田が弁明する余地はないと言わざるを得ない。
百田は本人への取材を一切せずに男性の名誉を傷つける文章を書き、幻冬舎はそれを良しとして「純愛ノンフィクション」と銘打って、世に送り出したことになる。元マネジャーは『殉愛』出版後、社会的な信用を失い、芸能界での職を得ることもできなかった。家族ともども、大阪から東京への引っ越しを余儀なくされている。表現は、生活を壊すこともできる。
■ファクトとの向き合い方
評伝『ゆめいらんかね やしきたかじん伝』(小学館文庫、17年)を記した、ノンフィクション作家・角岡伸彦が一連の裁判を傍聴している。
角岡の証言──「裁判での百田さんはまったく反省しているように見えなかった。悪びれるどころか堂々と反論していました」
インタビューで百田に、今なら別のやり方があったと思うかと問うと「確かに、書き方については、もっとこうしたらよかったという思いはありますが、仕方ない。書いてしまったんやから」と言う。一応の反省を示しつつも、過去は変わらないのだと語った。
いみじくも百田自身が語ったように「過去は変わらない」。だからこそ、事実を書く際には慎重さが求められる。『殉愛』騒動を取材しながら、よぎったのは『日本国紀』でも批判されている、ファクトへの向き合い方だった。
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