シリアの核施設を空爆で破壊せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月28日 15時40分
アメリカ側の3人は言葉を失い、ダガンの写真の説明に聞き入った。そのうちの1枚で、2人の男がコンクリート構造物の前でポーズを取っている。1人はアジア系で、青いジャージーを着ていた。隣に立っているのはシリア原子力委員会の責任者イブラヒム・オスマンだと、ダガンは言った。
稼働開始はもう間もなく
次にダガンは別の写真を見せた。同じアジア系の男が写っているが、今度はスーツ姿。3人はぴんときた。先日、北朝鮮の核開発を止めるために開かれた6カ国協議の写真だ。この男はチョン・チブという名の科学者で、寧辺原子炉の責任者の1人だと、ダガンは言った。
驚天動地の情報だった。アメリカは証拠どころか、手掛かりさえつかんでいなかった。北朝鮮が最初の地下核実験を行ったのは、半年前の06年10月。核兵器保有の野望は誰もが知っていたが、北朝鮮による核技術の拡散とシリアの核武装支援を示唆する情報は皆無だった。
イスラエルは既に場所を特定したと、ダガンは言った。建設中の核施設はシリア北東部の砂漠の奥深く、ユーフラテス川沿いのデリゾールという地域に隠されているという。
以前からチェイニーは北朝鮮とシリアの関係を情報機関に探らせていた。01年には、武装組織やならず者国家が闇市場で核製造技術を売買する危険性を警告している。
アメリカの情報機関はダガンがホワイトハウスに来る数カ月前、チョンがシリアの首都ダマスカスを頻繁に訪れている事実を突き止めていた。寧辺原子炉の責任者であるチョンは監視リストに入っている。チェイニーは情報機関の報告を受ける際、そこでチョンが何をしているか、それが核開発をめぐるシリアと北朝鮮の協力を示唆するものかどうかを担当者に尋ねた。
返ってくる答えは、いつもノーだった。両国がミサイル技術で協力していることは分かっているが、核兵器で協力している証拠はないというのだ。
しかしダガンの情報は、チェイニーの直感が正しかったことを実証した。おまけに、北朝鮮は核に関するノウハウを提供していただけでなく、シリアで原子炉を建設していたのだ。
07年8月のある夜、輸送用ヘリ「CH53シースタリオン」2機がレーダーに捉えられないように低空飛行していた。機内には、いつものM16自動小銃の代わりにAK47(カラシニコフ)を携えてシリア軍兵士に変装した特殊部隊員たちが乗っていた。
イスラエル国防軍(IDF)情報部(略称「アマン」)のトップであるアモス・ヤドリンが立案した計画に基づき、最精鋭の特殊部隊「サイェレット・マトカル」がシリアに送り込まれた。部隊に課された使命は、原子炉にできるだけ接近し、写真を撮影して、土壌のサンプルを持ち帰ること。ただし、イスラエルの兵士がそこにいたことは、誰にも知られてはならなかった。
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