シリアの核施設を空爆で破壊せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月28日 15時40分
この作戦には、3つの目標があった。原子炉を破壊すること。1機も失わずに帰還すること。そして、できるだけ静かに、誰にも知られずにミッションを完了させることだ。この点は「ソフト・メロディー作戦」という作戦名にも表れていた。シュケディは隊員の一人一人と握手し、「君たちを信じている」と激励した。
任務に出発した8機の戦闘機は、レーダーに捕捉されずにシリア領空に侵入するために地上60メートルの超低空飛行を続け、パイロットと乗務員はひとことも言葉を発しないようにした。
シリア側は戦闘機を目にすることさえなかった。戦闘機は午前0時すぎに標的上空に達して編隊を解き、一旦高度を上げてから次々に原子炉目がけて急降下した。
数秒で各機2発ずつ爆弾を投下。爆弾は原子炉の屋根や壁を直撃し、その様子は全てカメラに収められた。連続して大爆発が起き、まず屋根が、続いて壁が崩落した。原子炉は修復不可能なまでに破壊された。
戦闘機は2分弱で標的上空を離れて作戦のチーフパイロットに無事を報告、チーフパイロットがテルアビブに無線で報告した。「アリゾナ」。ミッション完了という意味だ。
ヘブライ語で「ボア(穴)」と呼ばれるIDFの地下司令室では喝采が起きたが、シュケディはまだ緊張を解くわけにはいかなかった。パイロットとの最終ブリーフィングで、シリア戦闘機と直接対峙してはならないと指示していた。シリア機が撃墜されたらアサドは「否認モード」に引きこもって見て見ぬふりをするわけにはいかなくなる。
作戦自体がなかったかのように見せ掛ける必要があった。戦闘機は一気に加速してデリゾールを後にした。午前2時、作戦開始から4時間弱で全機がそれぞれの基地に戻った。
「否認モード」に賭けて
「穴」に緊張感が漂った。だがヤドリンは部下たちの読みどおり、アサドは「否認モード」に引きこもるはずだと考えていた。アサドは長年そうしてきたように、今回もイスラエル機の領空侵入に見て見ぬふりをするだろう。戦争に踏み切るには、9月6日の謎の空爆に対して、イスラエルと戦争を始める理由を国民に説明しなければならない。1973年の第4次中東戦争以来最大の戦争に、だ。
経済が破綻しかけているのに、なぜ負け戦に国を引きずり込むのか、国民はいぶかるだろう。アサドがひそかに原子炉を建設していたと知ったら、国民が食べるものにも困っているのに原子炉に無駄金を使うとは何事か、と猛反発する恐れもあった。
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