シリアの核施設を空爆で破壊せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月28日 15時40分
モサドが入手していた現場の写真は多くが数年前のものだったし、人工衛星が日々送ってくる画像でも正確な状況は把握できなかった。イスラエルは、原子炉に燃料棒が運び込まれているかを知りたかった。それが分かれば、原子炉が稼働開始にどのくらい近づいているかが明らかになる。
サイェレット・マトカルの隊員たちは原子炉の近くまで来ると、プラスチックの箱に土やほこり、植物を採取した。探していたのは、ウランのかすかな痕跡だ。原子炉が建設されれば、近くにウランが散らばる。
このミッション自体は、ものの数分で完了した。その後、別の兵士が小さなほうきのような道具を持ち出し、自分たちが活動した痕跡を全て取り除いた。何も後に残すわけにはいかなかった。
オルメルトとブッシュ KEVIN LAMARQUEーREUTERS
土のサンプルをラボで調べると、結果は陽性だった。これにより、この施設が間違いなく原子炉だと分かった。しかも、稼働開始が近づいていた。攻撃して破壊するなら、早期に実行する必要があった。
隠密に実行された作戦
サンプル採取を行った数日後、オルメルトはヤドリンをイギリスに派遣した。同盟国に報告しておきたいと考えたのだ(米政府は既に、シリア空爆を実施しない意向をイスラエル側に伝えていた)。オルメルトは英首相のゴードン・ブラウンに電話し、対外諜報機関であるMI6(英国情報部国外部門)の長官ジョン・スカーレットとヤドリンの面会を求めた。
このときイスラエルが提供した情報は、イギリス側が全く想定していないものだった。スカーレットは直ちに、それを「容認し難い状況」と位置付けた。
MI6は、アラブ諸国に深く浸透していることで知られている。スカーレット自身もシリアのバシャル・アサド大統領と会ったことがあり、彼のことはよく分かっているつもりだった。ところが、アサドが核兵器の開発を進めているという情報を全くつかめていなかった。英政府は、それが中東地域の、ひいては世界の安定に及ぼす影響について強い懸念を抱いた。
「君たちのミッションは、シリアの原子炉を爆撃することだ」。07年9月5日、イスラエル空軍参謀長のエリエゼル・シュケディは、パイロットたちにそう述べた。彼らは顔を見合わせた。「イスラエルの人々と国家の安全を守るために極めて重要なことだ」と、シュケディは説明した。パイロットの1人は「驚いたけれど、考えている時間はなかった」と振り返っている。
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