シリアの核施設を空爆で破壊せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年6月28日 15時40分
一方、分裂し不満を抱く国民を結束させるには戦争が一番だということも、アマンの分析官たちは知っていた。アサドが報復を決断した場合、国民を納得させる口実はある。「軍事力を増強してシリアを超大国にしようとした」が、シオニストがその可能性を奪った。だから戦争に踏み切った――と言えばいい。
だが実際にはアサドの側近数人を除いて、シリア政府内で原子炉の存在を知っていた者は皆無に等しかった。IDFの北部軍が有事の際は援軍到着まで前線で持ちこたえるべくシリアとの国境付近で待機した。
空爆に加わったパイロットたちは離陸前、着陸して燃料を補給し再び離陸する可能性もあると聞かされていた。アサドが最終的にどう出るか、誰にも分からなかった。
IDFはさまざまなシナリオに備えた。オルメルトは空爆直後にアサドに内々にメッセージを送ることも考えた。イスラエルは原子炉を破壊したが作戦はそれだけだ、「そちらがおとなしくしていれば、こちらも何もしない」と知らせるためだ。
結局オルメルトはアサドに連絡しないと決めた。何が起きたのか、アサドには分かるはずだ。
数時間ほどで、ヤドリンはアマンの思惑どおりに事が運んだと確信した。シリア側の動きに変わった点はなかった。部隊の動員も空軍機の急発進もスカッドミサイルが発射台に搭載されることもなかった。戦争が起きる気配はなかった。
軍事顧問の最新報告を受けたオルメルトは直ちにブッシュに連絡。APEC(アジア太平洋経済協力機構)の会議でオーストラリアにいたブッシュは「何かあればアメリカはイスラエルの味方だ」と答えた。
数日後、米大統領執務室からオルメルトに電話してきたブッシュは一転して有頂天だった。「エフド、友よ!」と叫び、イスラエルは正しいことをしたと言った。国の存亡に関わる脅威を排除したのだ、と。
<本誌2019年7月2日号掲載>
※7月2日号(6月25日発売)は「残念なリベラルの処方箋」特集。日本でもアメリカでも「リベラル」はなぜ存在感を失うのか? 政権担当能力を示しきれない野党が復活する方法は? リベラル衰退の元凶に迫る。
ヤーコブ・カッツ(エルサレム・ポスト紙編集主幹)
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