抗生物質が効く時代はあとわずか......医療を追い詰める耐性菌に反撃せよ
ニューズウィーク日本版 / 2019年7月5日 10時20分
院内感染を防ぐ方法の研究が進めば除菌作業もずっと楽になりそうだ ANDIAーUIG/GETTY IMAGES
耐性菌との戦いで、もう一つの武器となり得るのがレーザーだ。パーデュー大学の生物学者モハメド・セリームらは、血液に異なる色のレーザー光を照射することで、血中にある感染性の細菌を迅速に特定する方法を研究した。
その過程で彼らは、特定の薬物に耐性を持つ細菌に青色の比較的弱いレーザー光を照射すると、その色が数秒で金色から白に退色することに気付いた。退色した細菌の一部は死滅し、残りは抗生物質への耐性を失っていた。
彼らは現在、さまざまな耐性菌を特定できるレーザー光の色の調整に取り組んでいる。これが成功すれば懐中電灯サイズの照射装置を使って、患者の皮膚上の危険な細菌を殺したり、病院や医局内の消毒をしたりできるようになる。医療従事者の皮膚や衣服に照射して、それが感染源になるのを防ぐことも可能になるかもしれない。
セリームは、血流中に入り込んだ致死的な耐性菌の消毒にもレーザー光の活用が可能だと考えている。患者を血液循環装置につなぎ、管を通る血液にレーザーを照射することで「血液を体外に取り出して殺菌し、再び体内に戻す」方法が考えられると彼は言う。
一方で研究者たちは、今も新たな抗生物質発見の希望を捨てていない。1928年、イギリスの細菌学者アレクサンダー・フレミングが研究所に置きっぱなしにしていた培養皿に奇妙な緑色のカビを見つけたことから、抗生物質革命は幕を開けた。
これ以降、研究者たちは自然界のあらゆる場所で、次なる偉大な細菌キラーを見つけようとしてきた。
最近の複数の研究によれば、耐性菌さえも死滅させる(ただし人間の体内に入っても安全な)新たな物質は昆虫や海草、魚類の粘液、ヒ素を豊富に含むアイルランドの泥や火星の土に含まれている可能性があるという。またライデン大学(オランダ)では、人工的に生成した細菌を微調整して新たな抗生物質をつくる研究が始まっている。
アオカビが細菌の生育を阻止しているのを偶然見つけたフレミングは世界初の抗生物質ペニシリンの発見者になった(1955年、ロンドンの研究所) PETER PURDYーBIPS/GETTY IMAGES
抗生物質の乱用に歯止めを
耐性菌の進化を遅らせて、今ある抗生物質を有効に活用しようという考え方もある。前提条件は、耐性菌の進化を促す抗生物質の乱用をやめること。耐性菌は一つの場所で発生したものが拡散されることが多いため、国際的な取り組みが必要になる。
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