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中東危機:シリアの沈黙、隠された動機と戦略

ニューズウィーク日本版 / 2023年10月20日 18時25分

「アラブの春」という転機

イスラエルに対する劣勢を克服するかに見えたシリアとハマース、そして抵抗枢軸だったが、転機が訪れた。2010年代前半にアラブ世界を席巻した「アラブの春」である。

2011年3月に「アラブの春」がシリアに波及し、各地で散発的な抗議デモが発生すると、政府はこれを過剰に弾圧、これが反体制派の武装化と暴力の応酬を誘発し、シリア内戦と呼ばれることになる混乱をもたらした。この混乱は、とりわけ欧米諸国や日本においては、自由と尊厳を求め、独裁体制の打倒をめざす民衆の革命運動として捉えられ、抗議デモや反体制派を弾圧するシリア政府は内外で激しい非難を浴びた。

ヨルダン川西岸地区やガザ地区で暮らすパレスチナ人も例外ではなく、多くがシリア政府に批判的な姿勢をとった。こうしたなか、ハマースはパレスチナの世論に配慮するかたちで、長年共闘関係にあったシリア政府と絶縁し、政治局をシリアから撤収した。

ハマースの方針転換は、そのほかの在シリア・パレスチナ諸派――パレスチナ人民解放戦線総司令部は(PFLP-GC)、ファタハ・インティファーダ、パレスチナ人民闘争戦線(PPSF)、サーイカ、パレスチナ解放軍(PLOの軍事部門)、イスラーム聖戦機構――がシリア政府を支援し、反体制派との武装闘争に身を投じて行ったのとは対象的だった。また、シリア国内のパレスチナ人のなかには、ハンダラート・キャンプのパレスチナ人が中心となってクドス旅団を名乗る民兵組織を結成・参加する者も多く現れたが、ハマースの決断はこうした動きとは真逆だった。

ハマースの幹部の1人だったサラーフ・アブー・サラーフは2012年半ば、民兵組織アクナーフ・バイト・マクディス大隊を結成、シリア軍に半旗を翻し、ヌスラ戦線が主導する反体制派と共闘し、ヤルムーク・キャンプを支配下に置いたのである。

しかし、こうした姿勢は長くは続かなかった。2015年半ば、イスラーム国が首都ダマスカス南部一帯などで勢力を伸長すると、アクナーフ・バイト・マクディス大隊はシリア軍と共闘するようになった。その結果、2018年4月にはヌスラ戦線を主体とする反体制派、イスラーム国を首都ダマスカス南部から完全に放逐、同地はシリア政府の支配下に復帰した。

ハマースとの和解の兆し

2020年3月のイドリブ県でのシリア軍、ロシア軍とトルコ軍、ヌスラ戦線が主導する反体制派との大規模交戦をもって、シリアでの主要な戦闘が集結し、シリア政府の存続が既定路線となるなか、ハマースとシリア政府の間でも徐々に和解の兆しが見えるようになった。

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