イスラエル・ハマス戦争の背後に見えるアメリカの没落
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月14日 21時0分
どこまでが「自衛権の行使」か
国際政治の世界で今回の事案が突きつけた大きな問題は、どこまでが「自衛権の行使」として認められるのかという点につきる。アメリカはイスラエルの行動を自衛権の行使として正当化しているが、本当に自衛権の行使の範囲内の行動なのだろうか。
イスラエルによる空爆はむしろ、ハマスによる10月7日のテロ行為に対する「報復行動」として捉えるべきものである。報復と自衛とは見かけは非常によく似ている。つまり、相手側の攻撃に対する「反撃」という形をとる。最も大きな違いは、自衛にはその定義上一定の限度が想定されるが、報復は国民感情が大きく反映されるため、過剰な「反撃」となり得るという点であろう。イスラエル人約1400名の犠牲者に対し、パレスチナ人10000人超(現時点)というのは、自衛というにはバランスを欠きすぎており、報復としてさえやりすぎと言わざるを得ないが、こうした反撃の過剰こそが、報復「感情」の支配を如実に示している。
例えば日本では、集団的自衛権に基づく武力行使に際しては、武力攻撃事態や存立危機事態が発生することが要件となっている。存立危機事態の3要件は、(1)日本に対する武力攻撃が発生したこと、又は 同盟国などに対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされること (2)これを排除し、国を守るために他に適当な手段がないこと (3)必要最小限度の実力行使にとどまるべきこととされている。
思考実験としてこの3要件を今回の事態に当てはめてみよう。そうすると、仮にイスラエルが主張するように、ハマスによるテロ攻撃によりイスラエルの存立が脅かされたことを認めるとしても、イスラエルの無差別攻撃が「適当な手段」かどうか、「必要最小限度」かどうかには大いに疑問が残る。
こうしたイスラエルの行動を理解する鍵は、ローマ帝国の時代から延々と続くユダヤ人がたどってきた長い亡国の歴史にある。イスラエルにとって、ようやく手に入れた現在のイスラエル国家の存続は、我々には理解の及ばないセンシティブかつクリティカルな問題であり、国際社会の反応はおろか、国際法をも凌駕する「超法規的」問題なのである。
そして、周辺をイスラム諸国に囲まれたイスラエルにとって、中東という地政空間の覇権を握ることが最も確実な生存権となっている。もし、この地域で現在イスラエルが有している優越的地位を失えば、現実問題としてイスラエル国家は消滅してなくなるだろう。地域の覇権を握ることが難しいとしても、周辺のイスラム諸国との間で安定した均衡を維持しなければならないのである。これがイスラエルの置かれている地政学的現実である。
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