イスラエル・ハマス戦争の背後に見えるアメリカの没落
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月14日 21時0分
アメリカが示す理念や行動が、決して公正な立場からなされているものではないのだとすれば、諸国がアメリカにつき従うのは、経済的、軍事的な見返りがあるからである。それこそが、「帝国」が存続するための本質的な構造である。しかし、そのために覇権国アメリカのコストはますます大きくなり、力を失っていく。結果として、中国などの台頭する新興勢力の挑戦を受けて覇権が交代することになる。これが国際システムの変動の歴史的なメカニズムだ。
覇権をより長期にわたって維持するためには、物質的コストを押さえつつ指導力を発揮することが必要となるが、そのための有効な手段がソフトパワーであり、例えば、誰もが納得する「公正な理念」だ。21世紀初頭においては、冷戦終結によってソ連ではなくアメリカこそが世界を指導する「公正な理念」の代表者となった。
しかし、アメリカが「公正な理念」に則って行動する国ではないとみなされるようになればどうなるのか。国連総会決議でアメリカの立場が少数派となったことがその傾向をよく示している。そうなれば、世界はいやおうなく分断され、アメリカの影響力が機能しないいくつかのブロック(地政空間)に分かれるだろう。冷戦終結当時から21世紀初頭にかけては、アメリカ一強であったが、ロシアが復権し、中国が勃興している現在、世界の多極化は避けられないのである。多極化した世界でどのような秩序を構想するのか、どのように行動すれば生き残れるのか、それが日本外交の課題となってくるだろう。
日本はどう対処するべきか
では、ガザ地区の問題に関して、日本はどのように対処すべきなのだろうか。日本もまた世界の警察官ではありえない。世界の平和を維持し、回復する資格も能力もない。しかし、世界の分断が広がり、秩序が不安定化することは、日本にとっても望ましいことではない。できる範囲で、関係国間の合意の実現と秩序の回復に努めることが必要だ。そのためには、どちらか一方の立場に肩入れするのではなく、公正な判断を示さなければならない。もし、日本が自国の国益のみを優先するという立場をとるのであれば、初めから第三国の問題に介入すべきではない。それがアナーキーな国際政治における主権国家としての節度というものであろう。
その意味で、国連総会決議で日本が賛成票を投じられなかったのは残念である。もちろん、米英が反対票を投じる中、G7議長国としてG7が内部で分裂するという状況に陥ることを避けたかったとの事情は理解できる。しかし、フランスが賛成に回ったのは誤算であり、G7内での日本の指導力とG7そのものの一体性にも疑いが生じる結果となった。
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