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イスラエル・ハマス戦争の背後に見えるアメリカの没落

ニューズウィーク日本版 / 2023年11月14日 21時0分

しかし、忘れてはならないのは、イスラエルの優位は、中東におけるアメリカのプレゼンスに依存しているということである。アメリカは1980年に表明されたカーター・ドクトリンにおいて、中東(ペルシャ湾岸地域)におけるアメリカの国益を守るためには軍事力の行使も辞さないという立場を示した。それ以降、中東・アフリカを担当地域とする中央軍を創設し、湾岸戦争を戦い、イラクのフセイン政権を打倒し、イランに圧力をかけ続けている。これは、中東の地政空間に決して覇権国を出現させないというアメリカの国家戦略に基づく対応である。

アメリカの中東戦略を見るうえで見逃してはならないのは、アメリカ政治におけるネオコン(新保守主義者)の台頭だ。ネオコンはブッシュ(ジュニア)大統領時代にその存在感を強く示し、イラク戦争を主導することになった。ネオコンの代表的イデオローグの一人であり、ユダヤ系のポール・ウォルフォウィッツ国防副長官(当時)は、長く中東戦略の重要性を説き続けていた。彼らの思想の根幹にあるのは、アメリカ的価値観の普遍性とアメリカの軍事的優位に対する強い確信である。ネオコンは、もともとは民主党支持者であり、思想的には民主党と親和性が高いものだ。リベラルな価値観を軍事力も活用しつつ世界に広めることで、アメリカの覇権あるいは優位を維持することが、彼らの方法論なのである。

バイデン政権は、まさにこうした発想に基づいて行動しており、その結果がウクライナへの強力な軍事支援であり、また、イスラエルへの強固な支持表明として現れているのである。アメリカはウクライナやイスラエルを支援することで、東欧や中東における自国のプレゼンスが縮小しないようにと考えている。仮にそれらの地域に覇権国が出現すれば、アメリカの影響力は瞬く間に失われてしまうからである。

イスラエルに自国を重ねるアメリカ

ニューズウィーク日本版は10月24日号「新・中東戦争」特集などで、現在のハマスとイスラエルの武力衝突の歴史的背景をかなり詳しく説き起こしている。また、ハマスを背後から支援するイランの重要性も指摘されている。しかし、今回の事態が示しているもう一つ重要な背景がある。それは言うまでもなく、アメリカの指導力の低下、あるいは没落の可能性である。

アメリカはこれまでも常にイスラエルを支持してきたが、1978年、カーター政権はエジプトとイスラエルとの和平協議の開始やパレスチナに関する協議を開始するというキャンプ・デービッド合意を実現するなど、中東和平への関心も示してきた。それが、結果的にはイスラエルの存続と中東におけるアメリカのプレゼンスの維持に有意義だったからである。しかし、カーター自身が、中東での軍事力の行使を辞さない立場を示し、さらに次のレーガン政権になると、徐々にネオコンが台頭することで、和平合意のような外交的手段よりも軍事力の行使を重視する傾向を示すようになっていったのである。その結果、アメリカの中東戦略は、極端に軍事的プレゼンスに依拠したものとなり、イラク、イラン、シリア、アフガニスタンなどとの間で対立と分断を深めることになっている。

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