イスラエル・ハマス戦争の背後に見えるアメリカの没落
ニューズウィーク日本版 / 2023年11月14日 21時0分
そもそもアメリカにとって、ハマスによるテロ攻撃に報復するイスラエルの姿は、9.11の同時多発テロを受けたアメリカに重なって見えている。そのとき、ネオコンが強い影響力を持っていたブッシュ政権は、「テロとの戦い」を掲げて、アルカイダをかくまっていると見られたアフガニスタンのタリバン政権を攻撃目標にして攻撃・占領した。さらに、後顧の憂いを残すまいと、大量破壊兵器の開発を理由にイラクにまで戦争を拡大したのである。
今イスラエルがガザ地区に対して行っている軍事作戦は、当時のアメリカの行動と瓜二つである。だからアメリカは決してイスラエルの行動を非難することはできないのだ。今回、アメリカがイスラエルの過剰な「報復」を「自衛権」として支持する立場を示している背景にはそうした事情もあるだろう。しかしその結果、これまで比較的アメリカと近かったアラブ諸国までが、アメリカの対応に疑義を呈している。おそらくアメリカは、中東における信頼を大きく損ない、その影響力をいっそう失うことになるだろう。
問題は、中東のみならず、世界中でアメリカの権威が弱まることになる可能性が高いことである。それを示したのが10月27日の国連総会決議である。この決議は「人道的な休戦」を求めるもので、ヨルダンが取りまとめた。国連安保理では中露と米英の対立により決議案の採択に至らなかったのと対照的に、121か国の圧倒的多数の賛成により採択された。これは、投票国の3分の2以上である。総会決議に法的拘束力はないが国際社会の「総意」として政治的重要性は高い。中露は賛成、米英はハマスへの非難が含まれていないとして反対票を投じ、フランスを除く他のG7諸国は棄権。この事実が示していることを日本も重く受け止める必要がある。
それは、アメリカは他の国々と同じように自国中心主義の国であり、世界の警察官などではなく、また公平な第三者でもないという(当たり前の)事実である。残念ながら、アメリカの主張とそれに同調しているG7の立場は、もはや世界の大多数を代表するものではなくなっているのである。
パレスチナ紛争で言えばイスラエル、ウクライナ侵攻で言えばウクライナをそれぞれ援護する目的で繰り返されるG7声明は空文化し、紛争当事者双方に働きかけるという資格をG7から奪っている。アメリカ的理念や価値観の吸引力、すなわちアメリカのソフトパワーが弱まっていることにより、ウクライナ侵攻以降の世界の分断と国際秩序の地殻変動は今後ますます大きくなっていくだろう。
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