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少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの

ニューズウィーク日本版 / 2024年1月26日 15時30分

「やっと分かったわ、水のありがたさが。薬飲むのにも水がいる。ここに越してきたとき、パーマ屋さんの先生がここ井戸あるけど、粗末にせんとけって。猫が来たら落ちりゃ悪いもんで、父ちゃんとふたを買ってきてすぐにのせて、ずっと守っとった。こんなときに役に立ってん」と向は言う。

向家の井戸水は飲むことはできないが、トイレを流すのに使える。近所で在宅避難している住人宅にも配り、一つ下の世代のこの住人からは、あそこの給水車は昼には水がなくなる等の細かい情報をいろいろと教えてもらっている。高齢者は情報弱者になりやすく、情報を積極的に取りに行ける世代の助けはありがたい。

向は19歳で嫁いでから65歳まで土木関係で働き、07年の地震の2年後に輪島市高洲山の麓にあった以前の自宅が裏山の土砂崩れでつぶれ、元の場所に建てるのが恐ろしくてこの地に引っ越してきたという。そしてまた被災。

「こんでいいっちゅうことはねえけど、死ぬまでがんばらなね。そうやろ、たくさん亡くなった人、けがした人おるけど、おらぁぴんぴんしとる、五体満足や。これから、まだまだ続くもんね。またがんばる。負けとられん」。向はそう言い、目からほろほろと涙を流しながら顔を上げた。

崩れた道の前に置かれた門松。こんな正月を誰が予想しただろう KOSUKE OKAHARA FOR NEWSWEEK JAPAN

今も市内全域で断水、また停電が続く場所もありライフラインの復旧が見通せないなか、この先のことについて考えられる段階ではない。だがいずれ「復興」という言葉が語られるようになるとき、長い未来に向けて中心となるのは若い世代だ。

しかし同時に、少子高齢化と過疎が進む輪島から、約100キロ離れた白山市へ中学生が集団避難することが連日のように報じられている。輪島市内の年少人口(0~14歳)は22年時点の推定で全体の7.2%。全国平均の11.6%と比べても少ない。

輪島高校に妻と義母と避難している7歳と4歳の子の父親(43)に話を聞くと、家族5人が2週間、一度も洗濯ができていない。平時でも小さな子供は感染症にかかりやすく衛生面への気配りが必要だ。洗濯物も多い。しかし断水のため洗濯ができず、七尾市の一部で水が出ていると聞いたので、コインランドリーに行こうと思っているという。

「夏場なら水をためてまだ何とかできますけど、冬は水も冷たい。今は家から持ち出せた服を着回して、汚れたやつは袋に入れておいて。2週間分をまとめて、車で1時間、2時間かけて洗濯しに行こうかと思ってます」と、この父親は語る。

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